持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

『良問でわかる高校英語』「別冊」の別冊(その5)

Chapter 2 動詞と文型(その1)

阿部・持田(2005)では大学教科書という性質上、文型を網羅的に扱うのではなく、学習が比較的困難と思われるところを重点的に扱った。しかし、文型を学習する過程における困難は学習者によってさまざまであり、また今回は高校生・大学受験生向けの学習書であることも踏まえ、本書では文型の全体像を示すことにした。1の「文型の考え方」では、初めに英語の文が「主語+述語動詞」で成り立つことを簡潔に示している。ここはChapter 1の繰り返しとなる箇所だが、ふたつの注意点がある。ひとつは英語の動詞には必ず動詞が含まれるという点である。最近の私の授業ではこのことを生徒に理解してもらうために時間を割いており、現在執筆準備中の学習書でも日英語の違いに言及するつもりである。しかし、本書では別冊としての文法のまとめという位置づけを踏まえて深入りすることは避けた。もうひとつの注意点は、単なる「動詞」ではなく、「述語動詞」という用語をあえて使っていることである。これは英語の文の骨格をなすのが主語と定形動詞であるという織田(2007)の指摘を参考にした。定形動詞の定性は時制で扱う内容であるから、ここではあくまでもそのための伏線である。しかし、岩垣(1993)でも文の中心である動詞が文の型と現実の時間との関連を表すと指摘しており、この伏線は文型導入の段階で必要であると判断した。
本書で「主語+述語動詞」のあとに「(+・・・)」という表記を添えている。ここに入る語句は田中(1993)のいう動詞のもつ「情報の完結感」あるいは「言い足りなさ」で決まるという考え方を援用している。しかし、情報の完結感を満たすために語句を続けるとだけ説明しても、どれくらい語句を続けてよいのかという目安が学習者には見えにくい。このため統語論的な枠組みもしてしておいたほうがよいということになる。このため、伊藤(1979)のS+V、S+V+X、S+V+X+Xの文型の3分類を踏襲することとした。これは安藤(2005)などに見られる、動詞を項構造で分類した場合(1項動詞、2項動詞、3項動詞)と重なるものである。伊藤はさらにXにどのような品詞が生じるかで項目を立てているが、本書でもそれに倣った。ただし本書では、これを一覧でまず示すこととした。
また、本書の特徴として文型に番号を振っていないことが挙げられる。動詞の後にどのような語句がどのような順序で配列されるかを学習することは重要であるが、それに番号を振って覚えることは必ずしも重要ではない。文型への番号の振り方は研究者によってまちまちであるのが現状で、それがたまたま日本でh同じ枠組みを共有することが多かったというだけの話である。それはかつて郵政省が「12」という番号を振った放送局に現在では総務省が「7」という番号を振っているのに似ている。このあたりは伊藤(1979)の考え方をさらに推し進めたものといえる。

参考文献

  • 阿部一・持田哲郎(2005)『実践コミュニケーション英文法』三修社
  • 安藤貞雄(2005)『現代英文法講義』開拓社
  • 伊藤和夫(1979)『英文法教室』研究社出版
  • 岩垣守彦(1993)『英語の言語感覚:ルイちゃんの英文法』玉川大学出版局
  • 織田稔(2007)『英語表現構造の基礎』風間書房