持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

受験英語の英文法―文法問題対策と読解文法

文法問題の問題点

大学入試の英語の出題を見ていると、現在でも独立した形式での文法問題が出題されている。大学によっては出題比率と合格ラインの関係上、文法問題さえ解ければ合格できてしまうことも決して珍しいことではない。こうした文法問題が出題される背景には、Murphy・飯島(2006)が指摘するような著作権法上の理由によって読解問題が出題しにくいという事情もあるが、何よりも文法問題が他の問題と比べて格段に作成が容易であるという現実がある。
文法問題が解ける、または解けるようになるための学習は、いわゆる4技能のような実際の英語力に結びつくのであろうか。伊藤(1996)は文法問題が解けるようになることが英文解釈と英作文の学力に結びつくような参考書を試みている。しかし文法問題を解いていればそのうちに読解や作文に必要な文法力が形成されるという考え方は、自覚しているかどうかはともかく、伊藤自身が否定している。伊藤(1997)で英文解釈の参考書は現実の英語を反映したものでなければならないと主張しているからである。

現実の英語と文法問題の英語

次に示すのは大学入試の文法問題の一例である。若干古い問題ではあるが、最近の問題とさほど大きな違いはない。

[1] Training programs for the Save the Earth Movement are conducted in towns or cities ( ) people want them.*1
1. how 2. that is 3. what 4. where
(聖マリアンナ医科大・98)
[2] There are times ( ) a person must stand up for what is right.*2
1. since 2. when 3. if 4. whether
駿河台大・法・98)
[3] There are several reasons ( ) we should not agree to her request.*3
1. how 2. where 3. which 4. why
京都学園大・98)

これらは関係副詞の問題である。こうした問題が出題されるため、受験英語指導においては関係代名詞と関係副詞は対等に扱われるのが一般的である。しかしBiber, et.al(1999)では、関係詞のうちで使用頻度が高いのはthat, which, whoの3語とゼロ関係詞であり、関係代名詞でもwhomやwhoseはほとんど用いられず、関係副詞はwhereが比較的用いられるものの、whenやwhyの頻度は非常に低いというデータが示されている。このことを踏まえれば、読解文法という観点からはthat, which, whoおよびゼロ関係詞に重点を置いて学習すべてであり、この点は受験英語においても変わらない。しかし文法問題が現実の英語における頻度を無視して出題されているため、頻度の低い文法項目にも言及せざるを得なくなる。
言語事実とは違うことを出題する文法問題も少なからず存在する。これに関しては小林(2006)のような、予備校講師の立場からの問題提起も行われている。小林のスタンスは基本的にはfact-orientedではあるが、入試問題の適切性を検討する上でコーパスを利用するなど、頻度を考慮する姿勢も垣間見ることができる。
根本的な対策は、入試問題から文法知識を直接問う問題を排除することである。これだけでも受験英語の特殊性が薄れ、高校の現場などでも受験対策へのプレッシャーが軽減されて授業の進め方をより柔軟に考えることができるようになる。もはや常套句であるが、入試問題が教師や学習者に与える影響は大きいのである。

参考文献

  • Biber, D., Johansson, S., Leech, G., Conrad, S., and Finegan, E. (1999) Longman Grammar of Spoken and Written English. London: Longman.
  • 伊藤和夫(1996)『英文法のナビゲーター〈上〉』研究社出版
  • 伊藤和夫(1997)『英文解釈教室改訂版』研究社出版
  • 小林功(2006)「これでいいのか、大学入試英語問題 予備校の立場から」『英語青年』152(1) pp.6-9.
  • Murphy, T.・飯島優雅(2006)「大学入試、著作権法、アカデミアの厳正さ、そして現実」『英語教育』55(2) pp.45-47.

*1:正解:4

*2:正解:2

*3:正解:4