持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

書き言葉の国文法とメタ言語能力

小学校低学年の子どもの文

高橋(1985)は、低学年の子どもが主語・述語の関係の整っていない文を書くことがよくあると指摘している。このような場合、子どもに文の構造を教えるためには「拡大の原理」が有効であると高橋は述べている。「拡大の原理」とは、文の構造のうち、主語と述語の対をホネグミと捉え、他の要素がこのホネグミを拡大していくという考え方である。

ホネグミ構文: はなが さいた。
拡大構文: さくらの はなが ぱっと さいた。

高橋は、こうした知識を段階的に導入することによって、子どもが書き言葉の文の構造を身につけることができると述べている。さらに、主語と述語のホネグミ構文に関しても、人間が外部世界を単語に分析したうえで、それを総合して文として表すという、分析と総合の過程を児童・生徒に気づかせることによって、学習意欲が高まったり、哲学的認識の初歩を身につけることができるようになるという。書くための日本語文法を身につけていく過程でメタ言語能力が形成されているという考え方が高橋にも垣間見ることができる。

脱文法?

文章を書くには文法は不要であると思わせるような言説も少なくない。中村(1985)によれば、この場合の「文法」とは「西洋語の文法を偽装した日本語」を指すという。つまり日本語本来の自然な表現ではなく、代名詞が乱用された西洋風の文を指しているのである。こうした「文法」がまかり通ってしまう事態の背景には2つの問題がある。1つは英語教育において英文法を導入する際に、例文の訳語として日本語としては不自然な表現を多用してしまっていること。もう一つは、日本語を母語とする学習者が国語教育のなかで学ぶべき学習文法が未整備であることである。
英語教育では日本語の知識を十分に持たないまま、日本語を介した指導が相変わらず行われている。国語教育でも依然として、言語技術の涵養を目指した学習国文法の構築には至っていない。この問題を解決することが5日制時代の学校教育において国語教育と英語教育を両立させながら両者の質を高めていく、大きな一歩のなるはずであるのだが、残念ながらその歩みは遅々としている。

参考文献