持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

メタ言語能力

メタ言語能力」とは何か

最近の言語教育・言語学習の言説において「メタ言語能力」という言葉に出くわすことが多い。大津(2006)ではメタ言語能力を「言語を意識化させる能力」と定義している。意識化とは、必ずしも文法用語を使って説明できることを意味するものではない。阿部(1998:25)の言葉を借りれば、メタ言語能力は「仕組みや規則を自ら発見して発展させていく作業」ができる能力である。
文法教育の目的はメタ言語能力の育成にあるという言い方がなされることがある。この主張自体は否定されるべきではない。しかし暗記によって獲得した文法知識が学習者の言語学習・言語運用に活かされないのであれば、その文法知識はメタ言語能力としては機能していないことになる。メタ言語能力は、文法教育・文法学習のあり方を見直す視点としても重要な概念なのである。

メタ言語能力」はなぜ重要なのか

成人の外国語学習では子どものように理屈抜きで覚えて使っていくという方法では成果が上がらないと言われる。阿部(1998)も限られた知識を発展させていくことが成人の英語学習では重要であると指摘している。知識を発展させていくには言語を分析する力が必要である。ここでいう分析力とは言語研究者のような緻密なものではなく、あくまでも実用本位の分析力である。こうした分析力を発揮できるようにすることが文法教育の目的である。言い換えれば言語知識を言語運用に結びつけるリンクのような役割を果たすのがメタ言語能力であり、文法教育の中身としての「学習文法」とは、こうしたリンクを伴った言語知識でなければならないのである。
国語学習で成人がこのようなメタ言語能力を活用するには、母語メタ言語能力が働くことが前提となる。これは大津(2006)も指摘するところであり、田中・阿部(1989)の言う言語間の写像(interlingual-mapping)を可能にするものである。このように考えると山室(2006)や森山(2006)の言うように国語教育のなかで文法教育をメタ言語能力の育成の手段として位置づけることが重要性を帯びてくるのである。

参考文献

  • 阿部一(1998)「社会人の外国語学習−「使える」語学力をどう身につけるか−」『英語教育』47(3) pp.23-25.
  • 森山卓郎(2006)「文法研究と文法教育との接点−日本語研究の立場から−」『日本語学会2006年度春季大会予稿集』pp.29-32.
  • 大津由紀雄(2006)「原理なき英語教育からの脱却を目指して 大学編」『英語青年』152(1) pp.33-35.
  • 田中茂範・阿部一(1989)「外国語学習における言語転移の問題(3)」『英語教育』37(11) pp.78-81.
  • 山室和也(2006)「文法研究と文法教育との接点−国語教育の立場から−」『日本語学会2006年度春季大会予稿集』pp.20-24.