持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

分かって、使って、感じ取る

英語は暗記科目ではない?

受験英語の世界は、教え方が「差異の戯れ」と化すことが多い(入不二1997)。このため「英語は暗記科目ではない」という発言が予備校講師によってなされることは決して不思議ではない。しかしこの発言を正しく理解している受験生は少ないようである。学習活動としての「(丸)暗記」を否定する教師はいても、知識を記憶しておくことの重要性を否定する教師はいないはずである。受験英語の場合、参考書の説明を暗記することは確かに必要ない。そこで扱われている文法現象を含む文法問題を繰り返し解くことで、当該文法知識は記憶されていく。
受験英語では、文法指導は明示的で演繹的である。このため丸暗記に代わるアプローチとして「理解する文法」を志向していくことになる。江藤(2006)の提案する、文法現象の本質を一言で理解させることが、ここでは大切なのである。また英文解釈において、大野(1972)や高橋(1986)のような変形文法による文法構造の説明が試みられたのも、英語の語順を理解させるということに主眼が置かれていた。

読解文法の定着−非暗記のアプローチ

同じ受験英語でも、文法・語法問題のような、知識そのものを問う問題であれば、そうした問題を解くことでその言語知識の定着を図ることができる。しかし長文読解に必要な文法知識を定着させるには、長文読解問題を解くだけでは不十分である。これは長文読解問題では設問の形式によって最適なストラテジーがとられるためである。このストラテジーで求められるのは効率と正確さであり、極論を言えば「いかに読まないで解答するか」という考えに基づくものである。
しかし文章をまったく読まずに正解できる問題ばかりではなく、かなりの理解力が要求される問題もあり、受験英語だからといって英語が読めなくてよいというわけにはいかない*1。このため読解文法を定着させるためには別個の学習活動が必要である。その方法のひとつがサイトトランスレーションである。サイトトランスレーションは通訳訓練法として古くから用いられていた手法である(鳥飼2001)。この方法を口頭で行うことで、語彙や文法を常に意識することになる。しかも和訳を紙に書く従来の英文解釈学習と比べて、短時間で行うことができる。このためより多くの英文に触れることができ、同様の文法現象に触れる頻度が高まり、英語に対する「慣れ」が促進される。もちろん、状況によっては同じ文法現象を含む文を集中的にこの方法で読み込むことによって読みにくい文法構造に慣れていくことも可能である。
この方法は、特に目新しいものではない。文法訳読法を語順に即した口頭訳で行い、パターンプラクティスに準じたドリルを文理解に応用しただけである。それでも従来のように文法を一通り学んで定着してから読解学習というアプローチよりも効果的であることは確かである。

参考文献

  • 江藤裕之(2006)「「実用的」な文法教育とは」『言語』35(4) pp.38-43.
  • 入不二基義(1997)「二つの頂点−『英文解釈教室とビジュアル英文解釈』」『現代英語教育』34(2) pp.12-17.
  • 大野照男(1972)『変形文法と英文解釈』千城.
  • 高橋善昭(1986)『英文読解講座』研究社出版
  • 鳥飼玖美子(2001)『「プロ英語」入門』講談社

*1:ただし、実際には文法などの知識問題だけ解ければ合格ラインに達する大学も少なくない。この場合は必ずしも英語が読めなければいけないわけではない。