持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

日本語−読む

都立高校入試問題に思うこと

「正しく読み取る」とは何か 平成24年度東京都立高等学校入学者選抜学力検査の「国語」では、出題の方針を「国語を適切に表現し正確に理解する能力をみるとともに、伝え合う力や思考力及び想像力を総合的にみる。」としている。現在公開されている問題のうち…

解釈学的国語教育

「解釈学」とは何か 日本の国語教育において解釈学的思潮が隆盛を極めた時期がある。輿水(1958)によると、昭和初期から終戦までの時期がそれにあたる。「解釈学」とは元来は古い文書をいかに解釈するかを研究する学問であった。この文献解釈の方法には「文法…

高等学校学習指導要領における読解力について(その6)

平成11年改訂版 今回の改訂では、国語科の内容が「A話すこと・聞くこと」「B書くこと」「C読むこと」と〔言語事項〕の3領域1事項に改められた。高等学校の科目は必修科目が「国語表現I」「国語総合」のいずれかとなり、選択科目が「国語表現II」「現…

高等学校学習指導要領における読解力について(その5)

平成元年改訂版 このときの改訂では国語科教育が言語の教育の立場に立ち、内容が2領域1事項からなることが踏襲されている。高等学校における科目編成は「国語I」「国語II」「国語表現」「現代文」「現代語」「古典I」「古典II」「古典講読」に再編さ…

高等学校学習指導要領における読解力について(その4)

昭和53年改訂版 これに先立つ教育課程審議会の答申で、国語科では文学教育偏重ではなく、日常の言葉の能力や態度の育成に力点を置き、言語の教育の立場から表現力や理解力を育成することという方針が立てられた。その内容は小・中・高を一貫して「A表現」「…

高等学校学習指導要領における読解力について(その3)

昭和45年改訂版 このときの改訂では科目編成の変更はない。よってここでも「現代国語」を取り上げる。「現代国語」の目標は次のようになっている。 国語による理解と表現の能力を高め,思考力・批判力を伸ばし,心情を豊かにする。 目的や場に応じて的確に聞…

高等学校学習指導要領における読解力について(その2)

昭和31年改訂版 これは昭和26年試案中のものを改訂したもので、教科内の科目編成を「国語(甲)」「国語(乙)」「漢文」として整理した。このうち「国語(甲)」が必履修科目で、「国語(乙)」「漢文」は分化、発展させたものである。 「国語(甲)」では…

高等学校学習指導要領における読解力について(その1)

昭和26年改訂版 ここではまず、「小学校・中学校・高等学校における国語学習指導の一般目標は何か」という項目を設けている。このなかで、目標の提示に先だって言語の役割について言及している。 言語は,互いに意思を通じ合うのに必要で,社会生活には欠く…

PISAにおける「読解力」について

このエントリーはこちらと関連したものです。 PISAにおける「読解力」の定義 OECDのPISA調査における「読解力」(reading literacy)は、次のように定義されている。 Reading literacy is understanding, using and reflecting on written texts, in order t…

古典文法と古文理解(その4)

英文理解と古文理解における文法の扱いの違い 英文理解における文法の扱いについては、「受験英語」が一定の貢献を果たしていると言って良い*1。だが、古文理解においてはどうであろうか。阪倉(1963:11)が「もともと文法なるものは、決して解釈のために整理…

古典文法と古文理解(その3)

その1・その2からずいぶん間が空いていますが、この問題を再び取り上げます。 文法の体系性と有用性 「文法のための文法」という言い方がある。松隈(1958)によれば、それは文法をひとつの学問として捉えた体系的知識を指すようである。松隈も認めているよ…

古文理解と現代語訳(その2)

意味理解前訳と意味理解後訳 英語学習において和訳の果たす役割について、横山(1998)が指摘しているように*1、古文理解においても同様の役割を果たすのかどうか、考えてみたい。横山は学習者が理解過程で行う和訳を「意味理解前訳」、十分な理解のうえで行う…

古文理解と現代語訳(その1)

古文理解における現代語訳の位置づけ 古文を古文のまま理解しろ、というような主張はあまり耳にしない。漢文であれば素読などのような活動もあるのだろうが、古文では事情が違うようである。つまり、古文の理解において現代語の介在は不可欠なものと一般に考…

古典文法と古文理解(その2)

古典文法の定義 そもそも、「古典文法」とは何であろうか。鈴木(1995)によれば、古典文法とは中学校や高校で扱われる古典語に関する文法であるという。ここで鈴木は「古典語に関する文法」と言っているが、これは古代日本語の文法を基盤として確立された文章…

古典文法と古文理解(その1)

古典文法の役割 古文の理解には古典文法の知識が必要であると一般に考えられている。金水(1997)は古典文法の役割について現代語文法と対比させながら次のように述べている。 学校文法に基づく古典解釈のメソッドが確立された結果、文法は完全に暗記の学問と…

日本語が読めれば、英語も読めるのか

日本語と英語の文章構成 田中(1989)の副題には、「日本語が読めれば英語が読める」と銘打ってある。伊藤(1995)は「文章の書き方に洋の東西でそんなに差があるはずはない」(113)という。この考え方を取れば、英語が読めるようになるには日本語と英語の最小…

「評論文」とは何か(その3)

「評論文」は論理的なのか 受験現代文では「文章を論理的に読む」と言う。だが、その対象となる文章がどの程度論理的なのであろうか。西尾(1954)は、近代の文章では起承転結などの形式的構成法が排除されてきたと指摘している。そうした文章は近代の文章とし…

「評論文」とは何か(その2)

「よい評論の条件」 長谷川(1973)は、「よい評論の条件」として、次のような点を指摘している。 論旨の組みたてや文章が、設定された読者対象の理解と享受に適合している。 明確な主題を持っている。 主題によって素材が吟味され、選択と整理をへている。 文…

「評論文」とは何か(その1)

受験国語と学校国語*1 受験国語、とりわけ受験現代文で取り上げられる文章は、「小説」と「評論」に二分されることが多い。学校教育においても、中学校の学習指導要領では文章を「文学的文章」と「説明的文章」に分類され、高等学校では「文学的文章」と「論…

国語教育における「読解」

PISAの「読解」と国語の「読解」との齟齬 経済協力開発機構(OECD)が2003年に行った「生徒の学習到達度調査(PISA)」によると、日本の高校生の読解力はOECD平均と同水準にとどまっている。平均というと悪くはないという印象を持たれるかも…

文理解と論旨の把握

内容をまとめる能力 学校国語*1や受験現代文では、傍線部解釈や空欄補充などの局所的な理解が求められる設問が多い*2。しかし、浜田(1996)が指摘するように、文章の論旨が明確に把握できなければ、内容の理解ができたとは言えない。浜田によれば、論旨を把握…

日英の文章構成の学習

英語の場合 英語の読解指導・読解学習の全体的な流れは、以前示したとおりである。 文構造の把握 品詞・句構造規則・文型の理解 上記の知識を利用した文理解の実践 パラグラフ構造の把握 パラグラフ構造の理解 上記の知識を利用したパラグラフ理解の実践 文…

日英比較文章論

説明的文章の基本構造 寺島(1986)は文章を説明的文章と文学作品に大きく二分した上で、説明的文章の基本構造として次のようなモデルを提案している。 前文(Opening) 本文(Main) 序論(Introduction) 本論(Discussion) 結論(Conclusion) 後文(Closi…

パラグラフまたは段落について

日本語における「段落」の概念 日本語における「段落」について、市川(1959)は「文段」という用語を使って次のように述べている。 「文段は一般に、形態的には「行かえ」のところで、意味的には一つの内容のまとまりとして把握される。われわれは、行かえの…