文理解と論旨の把握
内容をまとめる能力
学校国語*1や受験現代文では、傍線部解釈や空欄補充などの局所的な理解が求められる設問が多い*2。しかし、浜田(1996)が指摘するように、文章の論旨が明確に把握できなければ、内容の理解ができたとは言えない。浜田によれば、論旨を把握する技術は欧米諸国では学校教育の中に取り込まれているにもかかわらず、日本の国語教育では軽視されているという。
他者の書いた文章の論旨を的確に把握することは、自己の考えを文章化して他者へ伝えることにもつながってくる。三森(2006)は、ヨーロッパ人が容易に英語を学習できるのは言語そのものの類似性だけでなく、言語教育の内容の類似性も大きな要因であると指摘している。このため英語のリーディングやライティングを学ぶにあたっては、文文法やパラグラフの仕組みについて習熟することが求められる。国語教育において、文章の論旨を的確に把握させることができていれば、その能力や技術が英語学習にも役立つのではないかという見通しが立つ。
論旨の把握と文文法の役割
浜田(1996)で提案されている論旨の把握の方法とは、文や段落を分解・整理して単一の命題にまとめ、命題相互の論理関係を捉えるというものである。これはMikulecky and Jeffries(1996)で取り上げられているSummarizing sentencesと重なり合う部分が少なくない。こうした作業で重要なのが文文法の知識である。命題の中核となる「主語−述語」を把握し、日本語であれば「名詞+助詞」、英語であれば「前置詞+名詞」の句が、「主語−述語」とどのような関係にあるのか、そしてその結びつき方を文脈と照らし合わせて重要な情報を伝えるものかどうかを判断できる能力が大切である。これをまず国語教育において日本語でできるようになっていれば、そこで培われたメタ言語能力は英語学習にも活かされるはずである。
田中(1997)が指摘するように、日本語の助詞と英語の前置詞では意味的な身分が異なる。日本語の助詞の多くは純粋な操作子であるのに対して、英語の前置詞は本来空間詞である。このため語彙習得の観点からは、助詞と前置詞では学習法に違いが出てくることが予想される。しかし田中は英語の前置詞にも操作子機能(田中・深谷1998)を認めており、知識の学習の際に違いがあっても、知識の運用の段階では並行的に扱うことができよう。
参考文献
- 浜田文雅(1996)『文章理解の方法』慶應義塾大学出版会.
- Mikulecky, B. S. and Jeffries, L. (1996) More Reading Power. Addison Wesley.
- 三森ゆりか(2006)「三森ゆりかの提案」*3
- 田中茂範(1997)「空間表現の意味・機能」田中茂範・松本曜『空間と移動の表現』研究社出版.
- 田中茂範・深谷昌弘(1998)『〈意味づけ論〉の展開』紀伊國屋書店.
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