チャンキング・メソッドとリーディング
チャンクとチャンキング
深谷・田中(1996)は、コミュニケーションの流れの中でのコトバ*1は、その流れの中で使用される断片が配列されたものと捉えている。より一般的な言い方をするならば、コミュニケーションにおける言語表現・言語理解の単位は「文」ではなく、「断片」であるということになる。
何かを話す際に、話し手の脳裏には完全な文が浮かぶのではなく、「断片」が浮かぶ。先に浮かんだ断片に対して、後から新たな断片を追加しながら、話し手は言いたいことを表現していく(田中・佐藤・阿部2006)。こうした「断片」のことを「チャンク」と予備、チャンクが別のチャンクを呼び起こす連鎖反応のことを「チャンキング」という。
チャンキングとリーディング
田中・佐藤・阿部(2006)は、テクストを文の集合からなる段落としてではなく、チャンキング分析によってチャンク単位で学習者に提示する方法を提案している。この方法では、従来のようなスラッシュを入れた文章を読ませる方法よりも、英語の意味編成のプロセスが鮮明に浮かび上がるという。
しかし、重要なことは文章をスラッシュで区切って提示するか、チャンクごとに改行した形で提示するかということではない。断片連鎖による意味処理を学習者が行えるように支援することが重要なのである。実際、田中・佐藤・阿部(2006:210)でも「スラッシュを左から右へと流れる英語の情報の節目と捉えれば、直読直解にもある程度資するところがあると言えるかもしれない」と述べている。
スラッシュで区切っても直読直解ができないというのは、現実にはよく見られる現象である。つまり従来の英文解釈で用いられていた括弧や矢印がスラッシュに姿を変えただけで、スラッシュが単なる文の分析の道具となっていることが多いのである。この状況から脱却するためには、谷口(1992)が提案するような、区切った語句を縦に配列したものを読ませるのも一つの方法であり、この提示法を田中らもチャンキングによる読解指導に利用しようとしたのである。
スラッシュや改行の目的とスラッシュの優位性
スラッシュにせよ、チャンクごとの改行にせよ、その目的は情報処理単位の意識化にある。この点にさえ留意できていれば、スラッシュでも改行であっても同様の成果が得られるはずである。しかし、リーディングのプロセスに立ち返って考えると、スラッシュの方が改行よりも優れていると考えることもできる。
リーディングにおける断片化と断片連鎖
門田・野呂(2001)などが指摘するように、リーディングのプロセスは本来、相互作用的(interactive)である。すなわち、文字などの小さな単位からのトップダウン処理と、読み手の予測によるボトムアップ処理が同時になされるのである。文字編集の結果、文の連鎖となっている文章をいったん断片化し、断片ごとに意味処理したものを纏め上げていくこと(断片連鎖)が、リーディングには必要である。この場合、断片化がボトムアップ処理、断片連鎖がトップダウン処理と言える。
スラッシュの挿入や改行などを施していない、生のままの文章を学習者が読んで断片化する場合、筆記用具で簡単にチャンクを意識できるスラッシュの方が簡便である*2。そして、スラッシュで区切るごとに、日本語に訳してみたり、後続情報を予測したりしていけばよい。
断片化に必要な知識
断片化に必要な知識は統語的な知識である。従来からの英文解釈で培われた統語知識は断片化のための知識として活性化させることが必要である。田中(2005)では英文編成のための言語単位として、名詞チャンク、動詞チャンク、副詞チャンクの3つのチャンクを挙げている。しかし、名詞チャンクに含まれる後置修飾語句は関係詞節のように長いものも多く、チャンクを情報処理単位として捉える場合には、後置修飾語句を形容詞チャンクとして扱うほうが妥当である。基本4品詞のチャンクの内部構造に習熟すれば、学習者は自ら断片化したチャンクを理解し、断片連鎖によって理解内容を纏め上げていくことが可能になる。
参考文献
- 深谷昌弘・田中茂範(1996)『コトバの〈意味づけ論〉』紀伊國屋書店.
- 門田修平・野呂忠司(2001)『英語リーディングの認知メカニズム』くろしお出版.
- 田中茂範(編集主幹)(2005)『幼児から成人までの一貫した英語教育のための枠組み:ECF』リーベル出版.
- 田中茂範・佐藤芳明・阿部一(2006)『英語感覚が身につく実践的指導』大修館書店.
- 谷口賢一郎(1992)『英語のニューリーディング』大修館書店.
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