持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

認知言語学と学習英文法(その4)

テンスとアスペクト:意味の語り方

認知言語学は、言語学の中でも意味論の研究において大きく貢献している。そのため、学習文法に援用することによって、従来にはない「意味を教える」ということが可能となった。だが、元来目には見えない意味を学習者に提示するには、工夫が必要となる。田中(2008)では、現在・過去の2つのテンスについて、「スナップショット的」「動画的」「HAVE空間で語る」という形で3つのアスペクトを説明している。「スナップショット」が単純形、「動画」が進行形、そして「HAVE空間」が完了形である。確かに、現在完了形を過去形からいったん切り離し、現在時制の下位区分として提示したのは画期的である。これによって単純過去形と現在完了形との使い分けが、学習者にとって容易になるからである。
ここで問題は説明の仕方である。田中(1993)では単純形*1を「外から見た動き・変化がない」と説明したうえで、最後に「スナップショット」という言葉でまとめている。進行形については、田中(1993)では「ビデオムービー的」と称している。これが田中(2008)で「動画的」と改められたのは、時代の要請だったのであろう*2。これらに対して、田中・佐藤・河原(2003)は「変化が見えない単純形vs変化が見える進行形」と単純明快である。同時期に出ている松永・河原(2003)はレキシカル・グラマーの観点から、動詞の活用形ごとに項目立てをしており、進行形も-ing形の意味から説明している。従来の学校文法との整合性を考慮すれば、「進行形」「完了形」といった形式を順番に並べていく方がよいのだろうが、レキシカル・グラマーを標榜するのであれば、河原らのアプローチのほうがむしろすっきりする。従来の形式偏重からの反動とはいえ、意味重視の文法の提示法はいまだ混迷を極めていると言って良いだろう。

参考文献

  • 松永暢史・河原清志(2003)『絵で英文法』ワニブックス
  • 田中茂範(1993)『発想の英文法』アルク
  • 田中茂範(2008)『文法がわかれば英語はわかる』日本放送出版協会
  • 田中茂範・佐藤芳明・河原清志(2003)『チャンク英文法』コスモピア.

絵で英文法

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発想の英文法―チャンクだから話せる

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チャンク英文法―文ではなくてチャンクで話せ!もっと自由に英語が使える

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*1:田中(1993)では「相」という日本語の用語を使っている。

*2:15年前はハンディカム全盛だったのではないか。