パラグラフまたは段落について
日本語における「段落」の概念
日本語における「段落」について、市川(1959)は「文段」という用語を使って次のように述べている。
「文段は一般に、形態的には「行かえ」のところで、意味的には一つの内容のまとまりとして把握される。われわれは、行かえの所で、自然に文段を意識する。同時に内容のまとまりを、その段落の中に求めようとする。しかしながら、実際には行かえと内容上のまとまりとが一致しない場合が少なくない」(市川1959:74)
このことから分かることは、日本語において形式的な段落が必ずしも意味的なまとまりを反映してはいないということである。
英語における「パラグラフ」の概念
英語における「パラグラフ」の一般的な定義として、小西(2002)はパラグラフが主要な考え(main idea)を表すための複数の文の集合であると述べている。これはMikulecky and Jeffries(1998)などのESLテキストでも用いられている定義である。パラグラフの核となる主題はほとんどの場合、単一文で提示される。これがトピック・センテンス(topic sentence)である。
「意味的なまとまり」とは何か
「パラグラフ」の概念が希薄な日本語でも、文章での意味的なまとまりは認めることができる。市川(1959)も複数の文が「文段」を構成するには、各文が何らかの内容的な関連を持つ必要があると指摘している。
池上(1983)はこうした意味的なまとまりを「テクスト性」(texuality)と呼び、そのテクスト性を支える構造的要因として次の3点を挙げている。
- 「結束性」(cohesion)
- 「卓立性」(prominence)
- 「全体的構造」(macrostructure)
このうち、パラグラフもしくは段落の内部に関わるのが結束性と卓立性である。
これに対して谷口(1992)はテクスト性を支える要因として次の2点を挙げている。
- 「結束性」(cohesion)
- 「統括性」(coherence)
結束性の定義は池上も谷口も同様で、一般に言う文と文との前後関係のことである。統括性とは主題と各文との関連のことであり、英語のパラグラフではトピック・センテンスとそれ以外の文との関係において見られるものである。英語の文章においてはパラグラフの概念が明確であり、パラグラフのほとんどにはトピック・センテンスがあり、そのトピック・センテンスがパラグラフ中で現れる位置もある程度決まっている。
これに対して日本語の文章ではパラグラフの概念が希薄であり、英語のトピック・センテンスのように決まった位置で主題が示されることも多くない。このため文法的手段によって各文の重要度に強弱をつけ、文脈上重要な文が強調されるようになる。これが卓立性である。もちろん英語の文章にも卓立性は見られるが、文章理解の手がかりとしての卓立性の役割は日本語の場合の方がはるかに大きいのである。
参考文献
最後にひとこと
今回は日本語関連の文献が古いものしか手元になく、時枝などの重要な研究にも触れていないので、日本語研究や国語教育に携わっている方からのご意見等がいただければ幸いです。ちなみに『解釈と鑑賞』のバックナンバーは三崎町の古本屋で100円で買いました。