持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

文理解から文章理解へ

談話レベルの理解

1文1文の理解はできるようになっても、文章全体で何を言っているのか分からないということはよくある。優れた読み手と未熟な読み手の違いは文レベルではなく談話レベルにあることはよくいわれることである。宮浦(2002)によれば各文の理解を文章全体の理解に結びつけるには読み手に言語知識と言語外知識の両方が必要であり、そうした知識を用いて読み手が推論を行うことが必要であるという。このような知識は認知心理学の用語で「スキーマ」(schema)と呼ばれ、谷口(1992)によれば大きく「内容スキーマ」(content schema)と「形式スキーマ」(formal schema)に分けられるという。

  • 内容スキーマ:人間が生活する実世界に関する社会文化的知識
  • 形式スキーマ:言語に関する知識全般

スキーマは人間の認知活動すべてに関与するため、スキーマを全く持たない人間はいない。このため読解力の向上には新たに背景知識などを身に付けるだけではなく、すでに持っている知識を活性化させ文章の理解に役立たせることも必要である。
スキーマのなかでも形式スキーマは言語活動に関するものである。英語を理解するには英語の知識が必要となる。文レベルの理解が一応はできるという場合、それを文章全体の理解に結びつけるには、文文法以外の知識、すなわち文を超えた単位である談話(discourse)やパラグラフの知識が必要となる。また日本語を介して理解している段階では抜け落ちてしまう、いわゆる「英語的な発想」を理解するためには意味論的な言語知識が必要である。

母語の読解力との関係

外国語である英語の文章を理解する上で、母語である日本語の読解力がもたらす影響は少なくない。門田・野呂(2001)は、第二言語(=学習対象言語)の理解において第二言語の習熟度が低い場合は母語の読解力と第二言語の読解力との間の相関は低いのに対し、第二言語の習熟度が高い場合には両者の相関が高いという。このことから分かることは英語で文レベルの理解がある程度可能になった段階においては、国語教育と英語教育の協力・連携が必要であるということである。逆に言えば母語である日本語の文章を理解する上で伸び悩んでいるような学習者には、英語の読解のプロセスと照らし合わせ、母語であるがゆえに気付きにくい読みの問題点に気付かせ学習プラトーが脱却させてあげることも可能になる。

参考文献

  • 宮浦国江(2002)「意味」津田塾大学言語文化研究所読解研究グループ(編)『英文読解のプロセスと指導』大修館書店.