持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

読解指導・読解学習の手順⑥

「意味理解後訳」による理解の確認

従来から広く行われている文法訳読法の最大の問題は、学習者が英語のシニフィアンから日本語のシニフィアンに移し替えることに終始し、シニフィアンを捉えようとしない点にある*1。しかし文章全体の理解を確認する方法として文章全体を母語である日本語に訳すことは有効であることは確かである。この場合横山(1998)のいう「意味理解前訳」ではなく、一通りの理解を経た後の「意味理解後訳」がその手段となる。読解指導・読解学習における全文理解や全文和訳という活動自体の意義を疑問視する向きもあろうが、外国語としての英語の文章の全文理解・全文和訳の目的として次のようなものが考えられるのではなかろうか。

  • 理解内容を日本語で表現していく過程で、日本語と比較しながら英語的な発想に気付かせる。*2
  • 自然な日本語に訳すことを通じて、日本語の仕組みに気付かせ、意味理解前訳の際に生じた不自然な日本語が学習者の日常言語に転移することを防ぐ。

この2点を実現するには、辞書の訳語を無理矢理当てはめて日本語文を作るような、従来の訳読の実態とは違う方法で実践することが必要である。

視訳法(sight translation)

英語の文章全体を日本語に訳すといっても、従来のような後ろから戻って訳すのではなく、できる限り文頭から訳していくことが望ましい。この点は安西(1982)、亀井(1994)、中村(2003)などの翻訳学習書に指摘されており、また伊藤(1983,1994)などの学習参考書でも提案されている。
なかでも中村(2003)は実践的翻訳述を磨くために視訳法を用いることを提案している。この方法は「サイトラ」と呼ばれ、英文を訳出する単位ごとにスラッシュで区切って、頭から訳していく方法である。語順通り読むことを目的とする場合は口頭で訳していく訓練が重要だが、全文和訳のための視訳法では紙に訳文を書いていく方法で構わない。学習者はすでにフレーズ・リーディングで理解単位ごとにスラッシュを入れることはできるようになっているわけだが*3、ここでは訳出の単位としてスラッシュを入れていくことになるので、やや大きめの単位で区切れれば理想的である。

英文と訳文と比較し、推敲する

視訳法によりひとまず全訳ができたら、英文と訳文を読み合わせ、比較し、推敲する。推敲といってもプロの翻訳者が行うレベルである必要はないが、次の2点は押さえておきたい。

  • 英文の意味と訳文の意味にズレはないか。
  • 訳文が日本語として適切かどうか。

これは毛利(1972)が言うように、英語らしい表現を日本語らしい表現に置き換えるということであり、そのためには日英語の表現形式のあり方の相違に注意を向けなければならない。また高梨・卯城(2000)の言う訳に現れないものを理解し、ときには中村(2003)の言う補充訳をも行っていくことである。このレベルは従来の学校英語の域を出ているという批判もあろうが、「訳す」ということであり、このレベルを目指すのでなければ訳読など授業で行わなければよいのである。*4

復習としての視訳法

授業などで扱った英文を学習者が復習するのに適切な方法は、視訳法がすらすらと行えるようになることである。これは読解に必要な語彙知識と文法知識を定着させるねらいがある。
ここでは視訳法は文字で書くのではなく、口頭で訳していく。英文理解の正確さとスピードに慣れていくためである。目の前の英語が瞬時に訳せないということは語彙や文法の知識に不足がある可能性があり、視訳がすらすらできるようになった段階で、その英文を読むのに必要な語彙や文法の知識が定着したことになり、復習は完了となる。

参考文献

*1:http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20051118/1132846078を参照

*2:http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20051117/1132846148を参照

*3:http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20051214/p1を参照

*4:では大学受験の英文和訳はどうすればよいのか、という疑問があろうが、これにはこう答えるしかないと思います。「入試問題をよく研究なさってください」高校や塾・予備校の先生方にこれ以上のことを申し上げるのは釈迦に説法ですから。