持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

「パラリー派」と「構文派」のミゾをめぐって

両者の言い分

英文読解の方法論に関して、特に受験英語の世界で見られるのが、「パラリー派」と「構文派」の対立である。「パラリー派」とはパラグラフリーディングを身につけることを読解学習の中心に据える立場であり、「構文派」は「構文」によって英文を読み込むことを読解学習の中心に据える立場である。「構文派」の言う「構文」とは、no more thanなどの熟語的な特殊構文を指す場合(cf.山崎1979)と、読解文法全般を指す場合(cf.高橋善昭他2000)とがある。
「パラリー派」がパラグラフリーディングが必要とする背景には、大学入試問題の長文化がある。「構文派」が行ってきたような、1文ごとに読んでいくような方法では時間的に限界があるため、長文を読み飛ばすための大義名分として受験生から歓迎された*1
一方、「構文派」がパラグラフリーディングに拒否反応を示すのは、この読解法が「イギリスやアメリカの高校および大学で行われている‘国語’つまり英語の授業のメソード」(勝見・バーナード1991:iii)であったためである。英米の生徒・学生がすでに身につけているはずの文文法の知識を、まず身につけなければならないというのが「構文派」の主張である(伊藤1995)。

両者の共通点

実は、「パラリー派」と「構文派」には共通点がある。それは英文法の基礎的な知識を持っている学習者を想定しているということである。「パラリー派」がこの前提に立つのは明らかであるが、「構文派」に関しても「文の5文型・時制・不定詞・関係詞などについて一応の知識を持っている人」(伊藤1997:iv)を学習者として想定している。最近になって高橋善昭他(2000)のようにより基本的な文法知識から扱おうとする動きがあるが、高橋らの読解文法は実際に英文を読む際に知識をどのように活用すべきかという視点が抜け落ちており(もしくは後回しにされており)、「構文派」の進化形とは言い難い。

統合的アプローチの可能性を探る

読解文法の習熟とパラグラフリーディングを含む読解指導に関してはすでに述べている。しかし教室での実践ということになると、解決しなければならない点も少なくない。特に「構文派」がこれまで読解の学習時間の大半をかけて指導してきたものを、いかにして短期間で学び取らせるかという問題は重要である。この問題を解決する上でのポイントは次の3点であると考える。

  1. 文法現象を基本4品詞の視点に立って再構成し、構造規則として提示する。
  2. 理解の難しい文法構造については、その成り立ちを図示し視覚に訴える。
  3. 出現頻度の高い文法現象を重点的に扱う。

従来の「構文派」では、頻度が低いにもかかわらず、学習者にとって難解であるということで重点的に扱ってきた文法現象が多い。この状況を見直し、頻度の高い文法現象を重点的に扱うことができれば、これまでよりも早い段階で文法訳読的なレベルから脱却することができる。
パラグラフリーディングを学ぶ段階においても、トピックセンテンスになっている文の構造がつかめないということは十分に考えられる。また、うまく処理できない文法現象が、学習者1人1人で違ってくることも考えられる。そのような場合には、学習者の苦手な文法現象を含む文だけを抜き出して、集中的に読み込む練習をすることによって、その構文へ慣れることが容易になる。このとき練習に使う英文が、学習者がそれまでに授業などで読んだ文章から抜き出したものであれば理想的である。最近ではパソコンで教材を制作する教師が多いので、こうした補助教材を学習者1人1人にカスタマイズすることは決して難しいことではないはずである*2
こうして読解文法の学習を効率化し、捻出した時間を文を超えたレベルでの理解ができるような指導に当てれば、構文主義で文脈が把握できないだとか、パラグラフリーディングを教えても文法力がないためうまく読めないだとかという、それぞれの弊害を克服することが可能になる。

参考文献

  • 伊藤和夫(1995)『大学入試伊藤和夫の英語学習法』駿台文庫.
  • 勝見務・C.バーナード(1991)『キャプテンクックの英文解釈』研究社出版
  • 高橋善昭・佐藤治雄・斎藤資晴・武富直人(2000)『基礎徹底そこが知りたい英文読解』駿台文庫.
  • 山崎貞(1979)『新々英文解釈研究』第9訂版 佐山栄太郎改訂 研究社出版

伊藤和夫の英語学習法―大学入試 (駿台レクチャーシリーズ)

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キャプテン・クックの英文解釈

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基礎徹底そこが知りたい英文読解―大学入試攻略 (駿台受験シリーズ)

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新々英文解釈研究

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*1:もちろん、教える側にはもう少しまともな理論的根拠があるわけだが、私自身の浪人時代を振り返っても、受験生の認識はその程度であったと記憶している。

*2:クラスサイズが大きい場合は、文章中の文1つ1つを文法項目ごとに配列し、生徒に配布したうえで、生徒には各自で苦手な文法項目だけを復習するように指導すればよい。