持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

『良問でわかる高校英語』「別冊」の別冊(その1)

Introduction 英語の構造規則と英文理解への応用

本書は一般的な大学受験向け学習参考書と同様に、明示的な文法学習を支援する立場をとる。そしてそこで扱う文法知識は、Larsen-Freeman(1991)のいうFORM/MEANING/USEの3つの次元から捉えるように努めている。
本書別冊のIntroductionは、そのうちのFORMをおもに統語論の観点から扱ったものである。p.1-2にある「構造規則一覧」には、いわば「原始概念」として記憶すべき構造規則が25パターン示してある。このあたりは平野(1986)や早坂・戸田(1999)に着想を得ている。平野は「ある有限個の規則を使えば、無限個のあらゆる種類の文法的英文を、自動的につくり出すことができる」(平野1986: 3)という生成文法の考え方を実用文法に援用している。こうした考え方は「少ない時間数ながらも多い時間数によって習得される程度の能力をもち得るように」(早坂・戸田1999: 9)教えるときに重要となる。学習者が「文法は覚えることが多くて嫌だ」いう印象を持つのに対し、暗記は不要と喧伝するよりも、最低限何を暗記しておけば便利なのかをしれしておくほうがよいのではないかと考えたのである。実際に構造規則の数と中身の選定に際しては、Chomsky(1957, 1965)やPollard and Sag(1994)などを参考にしつつ、伊藤(1996)での文法の取り上げ方も考慮した。
続く「文法知識を生かした英文理解の手順」は、伊藤(1987, 1996)、高橋(1986)、阿部(2001)を参考にしている。「構造規則」では言語理論を拠り所にしたのに対して、「英文理解の手順」では実用書で提示されているものを参考にした。しかし、上に挙げた学習参考書では本書ほどの明示性の高い構造規則を用いているわけではないので、そのまま本書に盛りこんでも整合性を欠いてしまう。そこで坂本(1995, 2005)のような文を構成素に分解していく統語解析の研究にも触れていくこととなった。また「ポイント」で示している項目の中には、門田・野呂(2001)に基づくものもある。

参考文献

  • Chomsky, N. (1957) Syntactic structures. The Hague: Mouton.
  • Chomsky, N. (1965) Aspects of the Theory of Syntax. Cambridge, MA: MIT Press.
  • Larsen-Freeman, D. (1991) "Teaching Grammar." Celce-Murcia, M. (ed.) Teaching English as a Second or Foreign Language, 2nd edition. New York: Newbury House.
  • Pollard, C, and Sag, I.A.(1994) Head Driven Phrase Structure Grammar. University of Chicago Press.
  • 阿部友直(2001)『速読英文法完全トレーニング』テイエス企画
  • 早坂高則・戸田征男(1999)『リストラ学習英文法』松柏社
  • 平野清(1986)『実用生成文法』開文社出版
  • 伊藤和夫(1987)『ビジュアル英文解釈PART I』駿台文庫
  • 伊藤和夫(1996)『英文解釈教室入門編』研究社出版
  • 門田修平・野呂忠司(2001)『英語リーディングの認知メカニズム』くろしお出版
  • 坂本勉(1995)「統語解析」大津由紀雄(編)『認知心理学3言語』東京大学出版会
  • 坂本勉(2005)「人間の言語情報処理」大津・坂本・乾・西光・岡田『言語科学と関連領域』(言語の科学11)岩波書店
  • 高橋善昭(1986)『英文読解講座』研究社出版