持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

学習文法における統語論①

単文の構造

生成文法を学習文法に援用する試みには、核文を重視するものが多く見られた。これは複雑な構造を持つ英文を核文に還元して理解していくために必要なものであった。大塚(編)(1970)は、深層構造設定後の生成文法における核文の定義を、深層構造に別の文を含まない能動肯定平叙単文としている。大塚は、核文の理論的な役割が変わっても、言語直観の面では重要であることを示唆している。したがって、学習文法における統語論ではまず、単文の構造を記述することから出発する必要がある。
学習文法において、単文の構造の記述とは文型の記述を意味する。早坂・戸田(1999)は文を、従来の5文型に相当する5通りに展開する規則を設定している。安藤(1983)や村田(1984)は従来の5文型には問題があるという立場に立ち、句構造規則によって生成される文型を基本文型と考えている。どちらの場合も、文型をいくつ設定するかという点を除けば、句構造規則で基本文型を生成するというところが共通している。
一方、GB理論(Chomsky1981)では、投射原理(Projection Principle)によって、語彙項目の下位範疇化特性(subcategorization property)が統語構造を決定するという考え方を示している。これは学習文法の視点で言えば、文型は個々の動詞の語法で決定されるということになり、従来のような5文型の枠組みは不要になることになる。実際、上述の安藤(1983)や村田(1984)は標準理論(Chomsky1965)の枠組みで句構造規則から基本文型を設定しているわけだから、学習文法にとっては句構造規則の一般化は文型論の語彙文法化なのである。このあたりの議論はすでに以下のエントリーで扱っている。
http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20051201
http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20051202
http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20051209
動詞の下位範疇化特性を重視するというやり方は、ひとつ間違えば、Hornby流の動詞型をひたすら暗記するような自体を招いてしまうおそれがある。このため早坂・戸田(1999)でも従来の5文型を温存する立場をとっている。しかし、動詞の下位範疇化を純粋な統語的特性としてではなく、意味的性質として捉えれば、学習者は過度な暗記に頼らずとも、感覚的に文型に習熟していくことができるはずである。このあたりの議論はすでに以下のエントリーで扱っている。
http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20051103
http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20051212
よって、学習文法において、単文を統語論として規定すると、次のような3文型にまとめることができる。

文→S+V / S+V+X / S+V+X+X

この規則に加えて、S/V/Xのそれぞれを展開する規則を設定すれば、単文の構造を簡潔に学習者に示すことができ、かつ複文や重文への接点をも示すことができる。そして学習者の年齢などの発達段階を考慮して、場合によっては早坂・戸田(1999)の言うように学習文法のモデルを学習者に提示するということも現実味を持ってくることになる。

参考文献

  • 安藤貞雄(1983)『英語教師の文法研究』大修館書店.
  • Chomsky, N. (1965) Aspects of the Theory of Syntax. Cambridge, MA: MIT Press.
  • Chomsky, N. (1982) Lectures on Government and Binding. Berlin: Mouton de Gruyter.
  • 早坂高則・戸田征男(1999)『リストラ学習英文法』松柏社
  • 村田勇三郎(1984)『文(Ⅰ)』(講座・学校英文法の基礎7)研究社出版
  • 大塚高信(編)(1970)『新英文法辞典』増補改訂版 三省堂

英語教師の文法研究 (英語教師叢書)

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統率・束縛理論

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リストラ・学習英文法

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新英文法辞典

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