学習文法における句構造規則と文型論①
句構造規則から下位範疇化特性へ
従来の5文型を見直す視点としてChomsky(1965)の句構造規則を援用し、そこから安藤(1978,1983)、村田(1984)などの7文型や8文型という枠組みが提案された。しかし生成文法自体は動詞句の規定の仕方を句構造規則を用いる方法から語彙としての各動詞が持つ下位範疇化特性*1を活かす方法に移っていた。すなわち「文型」と「語法」の併存から「語法」への一本化に移っていたのである。
動詞は一般に述語を担い、述語をなす動詞が下位範疇化特性としてどのような要素を取るのかを示したものは「項構造」(argument structure)と呼ばれ、動詞がとる要素が「項」(argument)となる。安藤(2005)はそれまでの句構造規則によって生成される8文型の枠組みを保持しつつも、そうした生成文法の考え方を踏まえて文型を決定するのは動詞の項構造であることを指摘している。
「動詞の項構造が文型を規定する」という考え方の問題点
動詞の項構造によって文型を規定するという考え方は、自動詞・他動詞の区別や文型という概念そのものを学習文法から排除できるほどの説明力を持つ。動詞を覚えれば文型を覚えたことになるからである。しかし安藤(1978)から安藤(2005)に見られるように、生成文法や学習文法を熟知していると思われる研究者が8文型という文型論を保持しているのはなぜだろうか。これはHornbyの25動詞形が学習困難であることを経験的に知っているからである。安井(1973:180)においても、「初学者を対象とする学校文法において、5文型あれば簡単で、習いやすいが、25動詞型であれば複雑で、習いにくい」という一般的な考えがあることを指摘している。
動詞の項構造によって文型論を再構築する視点
安藤(2005)は8文型の枠組みのなかで動詞や形容詞を項構造によって次のように分類している。
このことから動詞のとる項の数は主語になる項を含めて3つまでということが分かる。すなわち「3文型」という大雑把な枠組みを設定できる可能性があるということである。実はこの枠組みはすでに受験参考書の中に垣間見ることができる。伊藤(1979)では従来の5文型ではなく次のような枠組みを想定していると思われる。
- S+V
- S+V+X
- S+V+X+X
これは生成文法のXバー理論に相当する学習文法の統語論を支える「ひな形」になるものである。これが項構造による文型論の問題点を克服する第一のポイントである。