学習文法における文型論(その4)
形式による絞り込み
国文法での、動詞述語文・形容詞述語文・名詞述語文の3文型の問題点は、森(2004)が指摘するように主語を不当に重視している点が1つある。これは見方を変えれば、主語だけ特別視して他の項を軽視しているということである。この述語がとる項という観点から、文型の数を形式的にいったん絞り込むことが、学習文法では有効である。学習すべき項目を少なく見せることが、学習者の心理的負担を軽減させることになるからである。
述語のとる項から文型を設定する場合、いくつの文型を設定したらよいだろうか。吉川(1995)や山中(1998)は1項述語・2項述語・3項述語の3つのパターンを設けている。これに対し、安藤(1986)では4項動詞を含めた4つのパターンを設定している。項というのは述語が表す状況を首尾よく表すためにどうしても必要な名詞句(または前置詞句)である。ここで必須要素とそうでないものとの境界をどこに設定するかで文型の数が変わってくる。安藤は確かに4項述語を設定しているが、4つの項がすべて表面に現れることはまれであると指摘している。英文法で定着している5文型で4項述語を認めていない。このため、新たな文法パラダイムへの移行に伴う学習者の負担を考えれば、1項〜3項述語の3文型が妥当であると思われる。
3文型という枠組みは、実は英文法ではすでに試みられている。伊藤(1979)はS+V、S+V+X、S+V+X+Xの3文型を想定した配列となっている。これは、動詞に後続する要素を、補語や目的語と決めつけずに英語の文法現象をありのままに見ていくことができるように配慮した結果生まれたものである。これを日本語の学習文法にも応用すると、次のようになろう。
- 日本語の3文型
- X+述語
- X+X+述語
- X+X+X+述語
- 英語の3文型
- S+述語
- S+述語+X
- S+述語+X+X
この表では英語の方にだけ主語(S)を設定しているが、これは「英語に形式上の主語、日本語に意味上の主語」という考え*1に基づいたものである。
参考文献
- 安藤貞雄(1986)『英語の論理・日本語の論理:対照言語学的研究』大修館書店.
- 伊藤和夫(1979)『英文法教室』研究社出版.
- 森篤嗣(2004)『学校文法拡張論−インダクティブ・アプローチに基づく文法教育の再構築』大阪外国語大学博士論文.
- 山中桂一(1998)『日本語のかたち:対照言語学からのアプローチ』東京大学出版会.
- 吉川千鶴子(1995)『日英比較動詞の文法』くろしお出版.
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