持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

学習文法における文型論(その3)

英語の5文型からの考察

学習文法における文型論というと、やはり英語の5文型が思い浮かぶことが多いであろう。日本語と違い、英語の場合は名詞述語や形容詞述語であってもBEが必要であるから、5つの文型の述語はすべて動詞を含む。このため、国文法のように動詞述語文、形容詞述語文、名詞述語文という形式的な分類を立てる必要がないと考えられている。森(2004)は日英語の文型を比較し、英語の5文型では動詞によってどの文型が取れるかが決定されることと、文型を決定することで動詞の意味が確定することの2点を指摘している*1。これは英語の大半の動詞においては、その意味によって文型が決定されるが、一部の基本動詞は意味が弱く漠然としているため、文型によって初めて意味が確定するということである*2。日本語でも英語でも、動詞の意味によって文型が決定されるのは間違いないであろう。問題は、英語の基本動詞のような、漠然とした意味しか持たない動詞が日本語にもあるのかどうかである。

分類の問題点

動詞の意味で文型が決定するということは、動詞によって「名詞+助詞」の助詞が決まるということでもある(寺村1982)。この場合、文型の数が多くなってしまうという問題が出てくる。単純に述語のとる項(argument)の数による分類よりも、助詞による分類の方が文型の数が多くなってしまうのは当然といえる。意味で分類するのだから、形式上の区分に神経質になる必要はないのではないかと思われるかもしれない。しかし、どんなに優れた分類であっても、項目があまりに多すぎるということになれば、学習者の負担は増大する。それを防ぐには、「たくさんあるように見えるけど、大きく分けるとこのどれかになる」みたいな、上位のカテゴリーが必要である。意味による分類の多様化に歯止めを掛けるのは、やはり形式なのではないかと思うのである。

参考文献

  • 森篤嗣(2004)『学校文法拡張論−インダクティブ・アプローチに基づく文法教育の再構築』大阪外国語大学博士論文.
  • 寺村秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味I』くろしお出版

日本語のシンタクスと意味 (第1巻)

日本語のシンタクスと意味 (第1巻)

*1:余談だが、英語教師・研究者でもろくに気付いていないことを、日本語研究者が気付いているとは恐れ入った。私も英語教師として、日本語・国語教師/研究者以上の洞察力で日本語を見ていきたいものである。

*2:英語の文型については、このブログでも何度も扱っています。「文型」で記事を検索していただきますと、ごらんいただけます。