教室英文法の試み(その3)
日本語と英語の文型
日本語の基本文型を考えた場合、まず動詞文、形容詞文、形容動詞文、名詞文に分けることができる。(黒田1980, 菅井2012)英語との対照で問題となるのは述語になることができる品詞の違いである。上述の通り、日本語では動詞、形容詞、形容動詞、名詞が述語になることができる。これに対して、英語では動詞しか述語になることができない。奥津(1980: 65)は「英語では、形容詞文でも名詞述語文でも、be動詞が必要であって、結局文が文であるためには、何らかの動詞が必要である。」と述べている。
太郎が中学生と喧嘩した。[動詞文](菅井2011)
太郎は背が低い。[形容詞文](菅井2011)
太郎は勇敢だ。[形容動詞文](菅井2011)
太郎は小学生だ。[名詞文](菅井2011)
名詞文に付く指定の助動詞「だ」について、菅井(2012)は付いても付いていなくても文として成立することを指摘している。ここで、「be動詞=だ/である/です」という説明は成り立たないことが明らかになる。beについては、田中・川出(1989)などで試みられているような「存在」というコアを示す(あるいは学習者に感じとらせる)ことが有効であろう。持田(2011)で試みたように、日本語の古典文法に見られる形容詞のいわゆる「カリ活用」に言及すれば、日本語の形容詞にも「存在」の意味の語が形容詞に入り込んでいることが理解できるはずである。なお、ここでもbeが文の成立に必要な理由の一つにテンスの必要性が挙げられる。このため、英語の形容詞に現在形や過去形が存在しないことを学習者に確認させることも有効だと思われる。
日英語の品詞の不一致
日本語で形容詞文であるものを、英語ではすべて「be+形容詞」で表すことができるかというと、そうもいかないところが初学者の躓きどころであるかもしれない。中島(1987)は感覚や情意の表現を取りあげている。
歯がいたい。(中島1987)
子供がうらやましい。(中島1987)
中島はこれらの表現について「感覚や情意の表現は日本語では常に話し手の観点から話されるので、「私は」は表出する必要がない。英語は主語の観点からなされるので、英訳ではIが必要である。」(中島1987: 27)と述べている。Iが主語になるということは、日本語のような形容詞文ではなく、英語では動詞文として表されるということになる。これは、S+V+Oを「SがOをVする」と機械的に結びつけても立ちゆかない例でもある。
I have a toothache.(中島1987)
I envy children. (中島1987)
(続く)
参考文献
- 黒田成幸(1980)「文構造の比較」國廣哲彌(編)『文法』(日英語比較講座2)大修館書店
- 持田哲郎(2011)「国語教育と英語教育の連携に向けて−文法教育を中心に−」町田守弘(編著)『明日の授業をどう創るか−学習者の「いま、ここ」を見つめる国語教育』三省堂
- 中島文雄(1987)『日本語の構造−英語との対比−』岩波書店
- 奥津敬一郎(1980)「動詞文型の比較」國廣哲彌(編)『文法』(日英語比較講座2)大修館書店
- 菅井三実(2012)『英語を通して学ぶ日本語のツボ』開拓社
- 田中茂範・川出才紀(1989)『動詞がわかれば英語がわかる−基本動詞の意味の世界−』ジャパンタイムズ
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