持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

主要部パラメータと日英学習文法

「鏡像」の例外となる現象

日本語と英語の語順が鏡像関係をなすため、岡田(2001)のようにXバー理論と主要部パラメータ(head parameter)に基づく説明法により学習者が日英語の語順の違いを理解しやすくなるという提案も出ている。主要部パラメータの設定値は、英語では「主要部先頭」(head-initial)、日本語の場合は「主要部末尾」(head-final)と考えられている。Xバー理論では主語は文(IP)の主要部である。日本語と英語は主要部パラメータの値が反対に設定されているにもかかわらず、主語の位置は両言語とも目的語と動詞の前である。Whitman(1998)によれば、この事実はXバー理論では説明できないという。この事実に関して安藤(1986)はSVの語順は主要部と補部との依存関係がないために日英語で同じ語順となると説明している。
どのような理論的枠組みでどのような説明になるかという議論は学習文法にとっては大きな関心事ではない。重要なのは「主語−動詞」という語順が日英語で共通で、他の語順で見られるような鏡像関係が見られないという言語事実である。そしてこの事実が文法学習、とりわけ明示的文法指導/学習においてどう位置づけられるかということに関心を向けなければならない。

SV文型からの語順の学習は有益か

一般に入門期の指導ではbe動詞から導入すべきか、あるいは一般動詞から導入すべきか、ということが問題になる。これは文型で言うとSVCとSVOのどちらを先に導入すべきか、という問題といえる。つまりSVを最初に導入するというのは一般的ではないのである。その理由について小寺(1990)はSVという文型が何らかの副詞語句を修飾語としてとる場合が多く、SVのみで現実に用いられることがほとんどないためであると指摘している。
SV、SVC、SVOという3つの文型を日本語の語順との違いという観点から見た場合、もっとも違いが大きいのはSVCである。日本語では動詞自体が用いられていない文と対応するからである。目的語の位置が異なるSVOがその次で、日英語で語順の違いがまったくないSVがもっとも違いが小さいということになる。しかし小寺の指摘のようにSVでは修飾語をとるのが普通であり、その修飾語が生じる位置は日本語と英語では異なる。この違いは先述の主要部パラメータの値の違いにより説明されるものであり、両言語の隔たりはSVOの場合と同じになる。こうなるとより少ない品詞で導入可能なSVO、すなわち「名詞+動詞+名詞」の文型の方が最初に導入する文型としては優れていることになる。

参考文献

英語指導と文法研究

英語指導と文法研究

格と語順と統語構造

格と語順と統語構造