持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

再び基本文型について

英語における「名詞+動詞+名詞」の重要性

英語学習の入門期においては自己紹介などの活動を通じて英語の文構造に習熟させようとすることが多い。しかし、この場合は人称代名詞の使用が不可欠であり、日本語を介した明示的文法指導を行う際に現実には使われない日本語を訳文として提示してしまうおそれがある。このため入門期の明示的文法指導では学習者の日本語に悪影響を及ぼさないような配慮が求められる。
このように人称代名詞の扱いに慎重さが求められるとはいえ、英語において「名詞+動詞+名詞」というパターンが重要な文型であることは確かである。読解文法として導入する際には人称代名詞を含まず、かつ目的語が「ヲ格」で対応する文をプロトタイプとして導入すればよい。またオーラル・コミュニケーションに即した指導の場合には、英語では命令文などをのぞいて主語が必要であるなどの知識を、明示的もしくは非明示的に意識させることが必要である。要は、日本語では動詞が文末に置かれるのが基本的な語順であるのに対して、英語では動詞が2つの名詞に挟まれる形で置かれるのが基本であり、逆に言えば動詞の左右には動詞が置かれるのが普通であることという事実を学習者に習熟させることが大切なのである。

日英語における格標示の対応

日本人学習者は、例えばmeを「私を、私に」と覚えたり、insist onを「〜を主張する」と憶あたりと、英語表現を格標示付きの日本語訳で捉えることが多い。日本語と英語で格標示がきれいに対応する場合は特に問題は生じないが、対応しない場合は誤用の引き金となる。
こうした問題を解決する試みの一つとして、認知意味論の立場から前置詞を捉え直し、学習者が持つ「前置詞−助詞」の一対一対応をいったん解体することで英語の正しい用法習熟させる手法がとられている。しかし認知意味論によって得られる「コア」と呼ばれる中核的意味は元来抽象的なものであり、学習者によっては日本語の支えがあった方が学びやすいということも考えられる。このため田中(1997)のような英語の前置詞と日本語の助詞との対象研究に基づいた、より的確な日英語の対応関係を明らかにしていくことが必要である。

参考文献

日英比較 動詞の文法―発想の違いから見た日本語と英語の構造

日英比較 動詞の文法―発想の違いから見た日本語と英語の構造

空間と移動の表現 日英語比較選書(6)

空間と移動の表現 日英語比較選書(6)