持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

応用言語学としての受験英語①

ご案内

今日から何回かにわたって、先日行われた阿部一英語総合研究所の勉強会における研究発表のハンドアウトを掲載していきます。

はじめに

従来、日本の英語教育で教えられている「英語」には、「受験英語」「学校英語」「英会話」の3つがあった。最近ではこれらに加えてTOEIC対策を中心とする「新受験英語」とでもいうべき潮流が生まれている。こうした現象から明らかなのは、日本人において英語学習の動機付けで重要なのは就職や進学といった社会的要因であるということである。そのなかでも入試対策である受験英語は日本人の多くにとって、好むと好まざるとに関わらず英語学習に真剣に取り組むきっかけの一つとなっている。
一方、学校英語は受験英語と一線を画し、実用主義・コミュニケーション重視という方向で純化を図ろうとしている。文法訳読法のアンチテーゼとして生まれた教授法や近年の第二言語習得研究などは、そうした「英語が話せるようになる」英語教育に対して理論的な支柱となっている。だが、こうした教科内容は読解力を重視する大学入試の出題内容との乖離を生じさせている。
受験英語の場合、経験主義が依然として幅をきかせており、英語教育学や応用言語学の研究とは無縁の存在であった。このことは英語教師が受験指導を理由に旧態依然とした授業のやり方を正当化する事態をも招いている。
本研究は、受験英語の根幹を成す読解力養成を応用言語学の視点で捉え、その視点から従来の英文解釈参考書の長所・短所を明らかにし、長所を向上させ短所を改善し補っていくことをねらいとしている。さらにそのことによって学校英語における受験指導以外の部分との共通点と相違点を明らかにし、中等教育における英語指導の効率化に資するものしたいと考えている。

受験英語、特に英文読解の現状

英文解釈参考書

学校文法の初歩に単語・熟語の知識を含めた「基礎」から出発して、それに加えて何をしたら英文が読めるようになるかという方法を示すことが英文解釈の参考書の役割であった。これらの参考書は大きく3つに分けられる。

  1. 熟語中心のもの
  2. 文法的な捉え方をするもの
  3. 英米作家名文選

1.について問題なのは「何をもって熟語というか」ということである。この種の参考書では熟語と「公式」が同一視されているが、こうした公式の多くは言い換えの日本語が示されているだけのことが多い。このような考え方は学習者の記憶に過度の負担を強いるという点で好ましいものとは言えない。また、文学を専攻した教師が現場に多く、分析的思考を得意としないということが事態を悪化させているのかもしれない。

3.については、方法論の欠如が最大の問題である。つまり、単に読んで訳すだけのものとなっているのである。英語を読んでわからない時に、記憶力やフィーリングだけではどうにもならないときに、その袋小路から脱出する方法を1や3.は持ち得なかった。こうして文法的な捉え方をするものが英文解釈参考書の主流となっていった。

パラグラフリーディングの普及と英文解釈

英文読解の方法論に関して、特に1990年代以降の受験英語の世界で見られるのが、「パラリー派」と「構文派」の対立である。「パラリー派」とはパラグラフリーディングを身につけることを読解学習の中心に据える立場であり、「構文派」は「構文」によって英文を読み込むことを読解学習の中心に据える立場である。「構文派」の言う「構文」とは、no more thanなどの熟語的な特殊構文を指す場合(cf.山崎1979)と、読解文法全般を指す場合(cf.高橋善昭他2000)とがある。
「パラリー派」がパラグラフリーディングが必要とする背景には、大学入試問題の長文化がある。「構文派」が行ってきたような、1文ごとに読んでいくような方法では時間的に限界があるため、長文を読み飛ばすための大義名分として受験生から歓迎された。
一方、「構文派」がパラグラフリーディングに拒否反応を示すのは、この読解法が「イギリスやアメリカの高校および大学で行われている‘国語’つまり英語の授業のメソード」(勝見・バーナード1991:iii)であったためである。英米の生徒・学生がすでに身につけているはずの文文法の知識を、まず身につけなければならないというのが「構文派」の主張である(伊藤1995)。
実は、「パラリー派」と「構文派」には共通点がある。それは英文法の基礎的な知識を持っている学習者を想定しているということである。「パラリー派」がこの前提に立つのは明らかであるが、「構文派」に関しても「文の5文型・時制・不定詞・関係詞などについて一応の知識を持っている人」(伊藤1997a:iv)を学習者として想定している。最近になって高橋善昭他(2000)のようにより基本的な文法知識から扱おうとする動きがあるが、高橋らの読解文法は実際に英文を読む際に知識をどのように活用すべきかという視点が抜け落ちており(もしくは後回しにされており)、「構文派」の進化形とは言い難い。
こうしてみると、受験英語における読解指導を見直す糸口は、文法をどう捉えていくかということに見いだしていくことができそうである。

参考文献

  • 伊藤和夫(1997a)『英文解釈教室・改訂版』研究社出版
  • 勝見務・C.バーナード(1991)『キャプテンクックの英文解釈』研究社出版
  • 高橋善昭・佐藤治雄・斎藤資晴・武富直人(2000)『基礎徹底そこが知りたい英文読解』駿台文庫.
  • 山崎貞(1979)『新々英文解釈研究』第9訂版 佐山栄太郎改訂 研究社出版

英文解釈教室 改訂版

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キャプテン・クックの英文解釈

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基礎徹底そこが知りたい英文読解―大学入試攻略 (駿台受験シリーズ)

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新々英文解釈研究

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