日本語から学ぶ英文法を考える(続き)
導入のあり方
日本語との対比から英文法を学んでいく場合、国語教育の中で帰納的に国文法を学び、英語教育の中ではその国文法の知識に対応づける形で、ある程度演繹的に英文法を学ぶことができれば効率的であると思われる。しかし、国語教育でそのような文法指導が行われていない場合は、英文法を導入する段階でまず英語に限らず日本語にも(そしてどの言語にも)文法があり、そういう規則に則ることで効果的な意思の疎通が可能になることを学習者に知ってもらうことが必要になる。
英文法の導入に先立つ日本語文法の扱いに関して、薬袋(1995)は従来の学校国文法の枠組みとはまったく無関係に、英文法の導入のためと割り切った扱い方をしている。例えば、「冬山に登る人」の「登る」は動詞と形容詞のはたらきを兼ねているから準動詞である、というような説明をする。このやり方は従来の学校国文法の現代語文法が古典文法を導入するために扱われているのと同様で、目標言語の習得に特化しすぎていて、学習者が日常生活で使用する現代日本語の内省に結びつかないという問題が残る。
一方、寺島(1986)では日本語で400字詰10枚の作文ができる程度の母国語の力を、学習者に付けさせることが必要であると説く。そして学習者自身が書いた作文から品詞の識別や文構造の把握ができるようにすることを通じて日本語のメタ言語能力*1を高めていくのだという。このやり方は、英語教師に日本語文法の知識がなければ難しいが、明示的な英文法の指導を本当に実効性のあるものにするには、これくらいのことは必要であろう。ただし、実践に際して、学校であれば国語科との軋轢を生む可能性があり、塾や予備校では英語の授業で「国語」をやることが顧客である生徒の保護者の理解を得られるかどうかが問題である*2。
参考文献
- 金水敏(1997)「国文法」益岡・仁田・郡司・金水『文法』(言語の科学5)岩波書店.
- 薬袋善郎(1995)『英語構文のオリエンテーション』駿台文庫.
- 寺島隆吉(1986)『英語にとって学力とは何か』三友社出版.
- 作者: 益岡隆志,郡司隆男,仁田義雄,金水敏
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1997/11/21
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 92回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
- 作者: 薬袋善郎
- 出版社/メーカー: 駿台文庫
- 発売日: 1995/12/01
- メディア: 単行本
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (3件) を見る