持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

無形資産としての言語能力

この国で本当に英語ができるようになりたいと思っている人は少数派である。資格試験が自己目的化し、英語力が付くかどうかに関係なく受かるかどうか、またはスコアが上がるかどうかということしか関心を持たずに学習する人が多い。このような状況では、優れた英語力を有する人の取りうる行動は2つある。

  1. もっぱらその能力を通翻訳などの実務にあて、教育活動から手を引く。
  2. それでも少数の学習者を徹底的に支援していく。

1.と2.の違いは言語能力を生産手段として寡占してしまいそこから得られる利益もまた寡占してしまうのか、あるいは技能の転移によって生産手段の共有化を目指すか、にある。日本では日常生活では英語が必要ないため、英語力はいわば無形資産(intangible asset)として機能するのである。
しかし面積比・人口比で言えばESL圏も含めた英語圏は他の言語圏を圧倒するものがあり、このような情勢の中で言語的に自立していられるのは、逆から見れば英語力を寡占する第一線の通翻訳者の力によるところが大きいと言える。こう考えると、一流の英語使いがある程度の人数で存在する限り、日本社会に英語が大量に流入することはなく、一般英語学習者(つまり無形資産レベルにまで英語力を高めるつもりがない人)のモティベーションを刺激するようにはならないであろう。もちろん寡占状態を寡占状態のままとして、新規参入の道を閉ざしてしまうのではなく、その門戸は開く必要がある。応用言語学などの理論研究はそのために行われるべきだということになる。