学習文法における文型論(その2)
主語の扱いと文型
文の構造の観点から文型を考える場合、主語の問題を避けて通ることはできない(森2004)。ここで注意しなければならないのは、日本語の記述文法における主語の扱い方と、学習文法における主語の扱い方は別の問題であるということである。言語事実を純粋に追求する記述文法と、学習者の言語習得や言語運用を考慮した学習文法とでは、文法カテゴリーの扱いに違いが生じることもありうる。従来の学校文法では、「主語+述語」を文の基本構造と考えられている。そして述語として生じる品詞によって「動詞述語文」「形容詞述語文」「名詞述語文」という分類が立てられている。このような3文型論に対して森は「主語」とされる名詞に付く「は」と「が」の異同が明らかではないこと、意味よりも形式を重視した分類であること、実際の使用頻度を考慮していないことの3点を批判している。
日本語の文法に主語を認めるかどうかをめぐってさまざまな議論があるが、すくなくとも「意味上の主語」のようなものは存在すると見てよいだろう。仁田(1997)は述語が要求する名詞句のうち、述語が表す事態の中心をなすものを、主語と考えている。仁田の指摘は妥当であろうが、英語の主語のような語順上の優位性は、日本語の主語にはない。このため、英文法を英語の授業で学習する学習者に対しては、日本語の主語は英語の主語と違って、あくまでも意味上のものであるということに気付かせる必要があろう。純粋な記述文法は個別言語の文法事実を明らかにすればよいが、学習文法は学習者が同時に学習する言語の文法体系との整合性も考慮しなければならない。従来の学校文法は国文法、英文法ともこうした考慮は見られない。英語に形態上の主語、日本語に意味上の主語というのは、この整合性に適う説明としての1つの提案である。
参考文献
- 作者: 仁田義雄
- 出版社/メーカー: くろしお出版
- 発売日: 1997/10/09
- メディア: 単行本
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