持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

《My Applied Linguistics》を取り巻く環境④

法研究の捉え方

言語研究には生成文法認知言語学などの理論研究と言語事実の解明を目指す記述研究がある。日本人の英語教師にとって英語は母語ではないため、自らの言語直観だけで英語の言語知識を捉えることは困難である。このため英語の記述研究の知見を援用することは「生きた英語」に迫るための1つの手段であると言える。

法研究の実態

大津(1995:4)は理論指向の生成文法への批判に応える形で「理論なくして事実の記述は不可能である」と指摘し、中右(1994:3)は「上質な記述研究であればあるほど、事実の背丈に見合った理論的視点によっても裏打ちされている」と述べている。したがって教師が語法の記述研究の成果に触れるためには、そうした理論の理解が必要になってくる。
法研究の目的について八木(1996:32)は次の4つを掲げている。

  1. さまざまな方法で収集されたcorpusの利用、文脈の分析などを通して、英語の実態を明らかにすること。
  2. 個々の語のふるまいについて、その規則性を明らかにすること。
  3. 形式文法、意味論、語用論、機能文法、認知文法、word grammar、lexical grammar、社会言語学、辞書学などの研究成果・方法論を道具として、英語の現象について、論理的に整合性のある説明をすること。
  4. 形式文法の理論などにも問題提起をし、理論的な問題に側面から貢献すること。

ここから分かるように、語法研究は必ずしも英語教育への応用を念頭に置いて行われているのではない。しかし八木はあらゆる分野の人が英語の現象について自由に議論すべきだとも主張しており、語法研究を専門とする研究者による知見を利用しつつ、ときには教師自らが分析を試みるという「利用しつつ参加する」姿勢がこの分野には必要であるように思われる。なお八木(1999)ではさまざまの言語理論の影響を受けつつも、どの理論にも与しないという立場に立ち、独自の研究方法を示している。これは前述の中右(1994)の見解と重なるものである。

英語教育・英語学習にどう援用するか

法研究の集大成として小西(編)(1980,1989,2001)が編まれ、その成果を一般辞典に反映したものとして小西・南出(編)(2001)などがある。またこうした成果が1990年代以降の学習英和辞典に与えた影響は大きい。しかし水野(2005)が指摘するようにそこには「学習の理論」を踏まえた編集がなおざりになっているという問題が残される。
つまり、語法の記述研究の成果によって「生きた英語」が日本人教師・学習者の目の前に明らかになることは歓迎すべきことではあるが、それをただそのまま学習者に提示するのでは丸暗記を強要することにもなりかねない。言語知識をいつ、どのように提示することが最も適切なのか、そうしたことを考えながら英語教師は語法研究の成果を利用しなければならない。

参考文献