持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

学習文法の句構造規則⑤

形容詞句を生成する規則

形容詞句(AP)はまず、名詞の前に置かれるものと、名詞句の後ろに続くものとを区別する必要がある。前者の規則は次の通り。

  • AP→Deg A

Degとは程度副詞のことである。Xバー理論に従えば、Aの後にPPを補部として添えておく方が妥当ではある。これはSVCA文型を句構造規則のなかに位置づけるかということに関連するのだが、形容詞型は現状の学校文法でも「文型」として扱っていないため、規則には盛り込まず、個々の形容詞の下位範疇化特性、すなわち語法知識として扱えばよいだろう。*1
後置修飾の形容詞句を生成する規則には次のようなものがある。

  • AP→P NP
  • AP→to VP
  • AP→VP-ing
  • AP→VP-en

不定詞・分詞に関する規則は名詞句の場合と同様であるが、社会人や理数系の科目が得意な生徒など、分析的思考が期待できる学習者の場合は関係詞節を先に導入し、whiz-削除によって準動詞の表現と関連づけることで定着が促進されると思われる。
関係詞節に関わる規則は上に示していないが、これも疑問詞の節と同様にwh-移動によって平叙文との関連づけを行い、痕跡にも気付かせるようにする。その際にはまず関係詞節が他の形容詞要素と同じように名詞を修飾するという事実に気付くことができるように留意しなければならない。隈部(2002)は従来の2文合成が適切な導入法と見ているが、まずは名詞句に関係詞節をつなげるという、五島・織田(1977)のいう「大きなNP」を意識させる方が先である。

折衷論的な視点

関係詞と疑問詞がほぼ同じ語で構成され、生成される節も類似の構造をなすことはまぎれもない言語事実である。したがってはじめから両者をまったく別のものとして扱うのではなく、意味論や英語史の観点を踏まえて両者を関連づけていく方が定着の面で有利である。例えば宮下(1982)では言語過程説の立場から疑問代名詞と関係代名詞をともに「不特定代名詞」として統一的に捉えている。言語学習において分類・分析は手段に過ぎず、統一的に説明が可能であればそれに越したことはないし、やむをえず分類する場合には相互の関連性を大切にし、バラバラな知識の丸暗記にだけはならないようにしたいものである。

副詞句を生成する規則

「副詞」という範疇は扱いが難しい。名詞・動詞・形容詞と違い、その機能が多岐にわたるからである。斉藤・鈴木(1984)ではその統語機能の分類が試みられている。長谷川他(2000)では生成文法の枠組みでさらに詳細な定式化が試みられている。こうしたことから言えるのは、Xバー理論でおいてAPやVPなどに副詞を挿入できる箇所があっても、英語という個別言語にはそれだけでは捉えられない副詞の統語現象があるということである。このため副詞の統語的振る舞いは実際に英語を使いながら確認していくなどの方法をとることとし、ここでは副詞句の内部構造のみを示すこととする。

  • AdvP→(Deg) Adv
  • AdvP→P NP
  • AdvP→to VP
  • AdvP→VP-ing
  • AdvP→VP-en
  • AdvP→Comp S

副詞節と分詞構文の関係

中島(編)(2001)などで分かるように、最近の生成文法では分詞構文を「小節」(small clause)と呼ばれる定形動詞(=述語動詞)をもたない節として分析しているため、副詞節との関連づけはなされていない。しかし学習文法では文法知識相互の関連づけは知識の定着を促進するという考えに立つため、Eastwood(1999)などに見られるような関連づけをすることが望ましい。

  • After Mike opened the bottle, he poured the drinks.
  • After opening the bottle, Mike poured the drinks.
  • Having opened the bottle, Mike poured the drinks.

もっとも従来の高校生向けなどの文法参考書と言語事実が違うことにも注意が必要である。Biber, et.al.(1999)によれば分詞構文や副詞用法の不定詞のほとんどが主節の後ろに生じており、単純な書き換えができないことが多いようである。

参考文献

  • Biber, D., Johansson, S., Leech, G., Conrad, S. and Finegan, E.(1999) Longman Grammar of Spoken and Written English. London: Longman.
  • Eastwood, J. (1999) Oxford Practice Grammar. Oxford: OUP.
  • 五島忠久・織田稔(1977)『英語科教育基礎と臨床』研究社出版
  • 長谷川欣佑・河西良治・梶田幸栄・長谷川宏・今西典子(2000)『文(Ⅰ)』研究社出版
  • 隈部直光(2002)『教えるための英文法』リーベル出版.
  • 宮下眞二(1982)『英語文法批判』日本翻訳家養成センター
  • 中島文雄(1980)『英語の構造・上』岩波書店
  • 中島平三(編)(2001)『英語構文事典』大修館書店.
  • 藤武生・鈴木英一(1984)『冠詞・形容詞・副詞』研究社出版

*1:句構造規則を教室に持ち込んだ場合に「とりあえずここまで覚えてしまおう」というやり方も学習者の状況によっては考えられるのでできるだけ簡潔にまとめる方が得策である。