日英対照の学習文法へ向けた諸問題(その3)
「を」や「が」を特別扱いすることの問題点
日英語を対照的に扱う学習文法における日本語の助詞の扱いを見てきている。言語運用におけるチャンクの文法的性質を、名詞チャンク・動詞チャンク・形容詞チャンク・副詞チャンクという4品詞に集約させる形で構成していく場合、英文法で[φ+名詞]が名詞句、[前置詞+名詞]が副詞句または形容詞句となるところが日本語文法ではすべて[名詞+助詞]で対応することになる。英語で[前置詞+名詞]が形容詞句となるのは一部の叙述的な用法を除けば名詞と結びつくものであるから、動詞と結びつくものに関しては英語では名詞が直接動詞と結びつく場合と前置詞を介して結びつく場合とで形式上の区別が行われている。しかし、日本語の場合はすべてが[名詞+助詞]であり、形式上の線引きが難しい。
せっかくの対照型の学習文法であるから、対応する英語表現を分類規準とすることも考えられる。だが、英語の[φ+名詞]と日本語の[名詞+を]の分布が完全に一致するわけではない(奥津1980、吉川1995)。英語の[前置詞+名詞]が日本語の[名詞+を]に対応することもあるし、英語の[φ+名詞]が日本語の[名詞+に/と/が]など、「を」以外の助詞と対応することもある。また、「が」は一般に主語をマークする格助詞だと言われているが、この場合「僕はお金が欲しい」の「お金が」は主語ということになるが、英語では動詞の右側に[φ+名詞]として現れるから目的語となってしまう。久野(1973)のように、このような[名詞+が]を目的格として分析するものもあるが、ここでこうした議論が起こるのは英語のように動詞の左側なら主語、右側なら目的語という、形式的な判断が日本語の分析においては不可能であるからである。専門家でも意見が食い違いようなところに学習文法で学習者が納得できるような線引きをするのは困難である。したがって、動詞と共起する名詞句を助詞や前置詞の有無に関わらず一貫した説明をしていくことが学習文法には求められることになる。
参考文献
- 久野翮(1973)『日本文法研究』大修館書店.
- 奥津敬一郎(1980)「動詞文型の比較」國廣哲彌(編)『文法』(日英語比較講座第2巻)大修館書店.
- 吉川千鶴子(1995)『日英比較・動詞の文法』くろしお出版.
- 作者: 久野すすむ
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- 作者: 國廣哲彌
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- 作者: 吉川千鶴子
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