持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

日英対照の学習文法へ向けた諸問題(その2)

今回も断片的です。

「は」「が」「を」を特別扱いする分析

生成文法の枠組みでの日本語研究の中には、「は」「が」「を」を他の後置詞と分けて分析しているものもある。Whitman(1998)は、「は」をCPの主要部、「が」をIPの主要部、「を」をTrP(他動性句)の主要部と見なす分析をしている。この考え方は、日英語の語順の違いを主要部パラメータによって説明する分析とは一線を画すもので、たとえば[名詞+は]が1つの構成素をなすという考え方は否定され、英語のPPと同等の[は+名詞]という語順で生成された後に移動操作を経て、「日本は」であれば「日本」がCPの指定部で「は」がCPの主要部であるというような分析になっている。
この分析は理論言語学的にはそれなりの説得力を持つものである。しかし英語ではCPの指定部はwh-語などであり、英語の疑問詞と日本語の普通の名詞とが文法上同じ働きをするという考え方は、学習文法としては奇異なものと言わざるをえない。ただ、日英語を対照させながらの学習文法において、英語では語順のみで規定される格関係を日本語で規定される際に生じる助詞は、他の助詞とは別に考えることも検討に値するのではないか、という示唆だけは得られる。

参考文献

  • Whitman, John(1998)「語順と句構造」竹沢幸一・John Whitman『格と語順と統語構造』研究社出版

格と語順と統語構造

格と語順と統語構造