学習文法における動詞意味論①
意味関係からの視点
一般に意味論で言われる意味関係にはシンタグマティックな関係とパラディグマティックな関係とがある。前者は結合可能性、ないしは連語可能性のことであり、後者には同義性、反意性、下位性などが含まれる。
田中(1990)によれば、大人の場合、名詞ではパラディグマティック連想を好む傾向があるが動詞や形容詞ではシンタグマティックな連想もかなり強いという。またシンタグマティックな連想では「左から右への効果(left-to-right effect)」が作動原理として働くため、動詞では主語よりも目的語を連想することが多いと指摘している。このことは意味の似た動詞をグループ化し、それらの動詞型の共通性に気付かせることが容易であるかのような印象を与える。
しかし池上(1975)は語の意味が規定されることが先で、その後他の語との意味を比較することによって意味関係が自動的に出てくると指摘している。つまりグループ化し、リストにした動詞を提示して動詞型に習熟させるという方法は、リストに載っている動詞の多くが学習にとって未知の単語である場合には困難が予想されることになる。
語彙習得からの視点
門田(2003)は、第二言語における語彙知識の発達はまず語彙サイズが大きくなり、3,000語ほど習得すると語彙の深さ(知識の質)が重要になってくると指摘している。また語彙知識のなかでも連語に関する知識は、母語の干渉を受けるため、他の語彙知識よりも習得が遅れることも指摘している。
Jiang(2000)は第二言語における語彙知識の発達には次の2つの制約があると指摘する。
- インプットが質・量ともに不足すること。
- 第一言語による概念・意味体系がすでにできあがっていること。
このため第二言語の語彙を学ぶ際に学習者は母語の概念・意味体系に頼りがちになるという。第二言語のデータを処理するために、そのデータを第一言語の概念・意味体系に結びつけるプロセスを田中・阿部(1989)は「言語間の写像」(interlingual mapping)と呼び、この写像を可能にするには学習者は言語間の対応物を探すというストラテジーを用いることを想定している。この場合、言語間での対応物が見つけやすい場合は言語転移が作用しやすいということになる。