持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その12)

「好き嫌い」などを表す形容動詞

日本語の形容動詞文には、好き嫌いや必要・不必要を表すものがある。これらの形容動詞文は感情を表す形容詞文と同様に、英語では他動詞文に対応する*1

I like coffee. (私は)コーヒーが好きだ。
I hate cats. (私は)ネコが嫌だ。
I need a table. (私は)テーブルが必要だ。

形容詞と形容動詞文では、話し手以外の感情を表す場合に違いがある。形容詞文の場合、話し手以外の感情を表すときには形容詞に「がる」をつけて動詞化する。

I want a motorbike. (私は)バイクがほしい。
My brother wants a motorbike. 兄はバイクをほしがっている。

形容動詞文ではこうした形態上の変化はない。

My father likes coffee. 父はコーヒーが好きだ。
My mother hates cats. 母はネコが嫌だ。
The students need a table. 生徒にはテーブルが必要だ。

この点では、形容動詞文のほうが英語との対応関係がつかみやすいとはいえるものの、S+V+CよりもS+V+Oに対応することが一般的であることを生徒に理解してもらう必要があることには変わりない。

なお、この「が」が日本語において主語なのか目的語なのかは議論の分かれるところである。

日本語に特徴的なものとして、意味的には目的語のようであっても、主格助詞の「ガ」をとるものがある。英語では他動詞がこれに対応する。「~ガ欲シイ」と'want'、「~ガ要ル」と'need'、「~ガ好キダ」と'like'、「~ガキライダ」と'dislike'、「~ガ分ル」と'understand'、「~ガ見エル」と'see'などである。*2

英語では、知覚・感情の〈対象〉はゼロ標示されるが、日本語では「〈経験主〉に〈対象〉が見える/聞こえる/解る/要る」のように対格にはガ格が対応する。この場合のガ格は動作の主体ではなく、心・感覚が向かう〈対象〉を示す。*3

いずれにせよ、英語との比較対照という学習上の要点としては、S+V+Oが「SがOをVする」にならない例のひとつとして生徒に受けて止めてもらえれば、それで十分であると考えている。

日英比較 動詞の文法―発想の違いから見た日本語と英語の構造

日英比較 動詞の文法―発想の違いから見た日本語と英語の構造

日英語比較講座 第2巻 文法

日英語比較講座 第2巻 文法

*1:吉川千鶴子(1995)『日英比較動詞の文法』くろしお出版

*2:奥津敬一郎(1980)「動詞文型の比較」國廣哲彌(編)『文法』(日英語比較講座2)大修館書店, p. 80.

*3:吉川前掲書, p. 21.