持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その3)

語順と語形(続き)

英語の最重要文型として「名詞+動詞+名詞」というパターンを提示し、動詞の左側の名詞を主語、右側の名詞を目的語とそれぞれ規定した。文の要となる動詞は「述語動詞」というもので、現在形か過去形を使うことにも触れた。さらに名詞句の仕組みを、まずは冠詞の有無、単複、some/anyの絡みで7つの基本形として示した。theとの関連で、this/theseとthat/thoseにも軽く言及している。次いで人称代名詞の導入となる。これは拙著『良問でわかる高校英語』で導入した方法を踏襲した。この段階で、冠詞(とその仲間)という括りで語群をまとめることができる。こうして「冠詞+名詞」さらに「冠詞+形容詞+名詞」という句構造の導入を可能にしていく。『フレーズで覚える英単語1400』には「形容詞+名詞」で覚えるフレーズが収録されているため、ここで中学(高校入試)レベルの単語を名詞句の構造に習熟しながら覚えていくことが可能になる。『フレーズで覚える英単語1400』には「名詞+名詞」で覚えるフレーズも収録されており、名詞を修飾する名詞についてもここで扱うことになる。

練習問題としては、寺島実践*1の「センマルセン」を参考にした文構造の分析を課している。このときの素材は、練習問題用の所見の英文ではなく、解説資料に掲載した英文をそのまま練習問題ととして再掲した。これは『英文法基礎10題ドリル』(田中健一著、駿台文庫)の影響によるところが大きい。解説資料に挙げた例文は『短文で覚える英単語1900』から抜き出したものであるが、基本文構造の導入の段階では同書の例文をさらに短く加工して掲載したものもある。単純な構造の文から複雑な構造の文へと学んでいけるように配慮した。TBLTやCLILが流行る昨今において逆張りとも言える徹底的な構造シラバスである。文構造の習熟には語句整序問題も一定の効果があり、今回の教材にも取り入れている。同時に『フレーズで覚える英単語1400』に収録されているフレーズを組み合わせて英文を作る練習も課した。

形容詞を導入したあたりで、日本語の品詞と英語の品詞が対応しないことにも触れる必要が生じる。国語の授業では「~い」で言い切る語を形容詞と呼んでいるが、「~だ」で言い切れる形容動詞も活用の仕方が違うだけで広い意味での形容詞である。しかし英語の形容詞に対応する日本語を見ていくと、形容詞と形容動詞だけでは対応しきれていないことに気づく*2。例えばlocalは「地元の」というように「名詞+助詞」であるし、dryは「乾燥した」という動詞である。こうした事例を挙げて英語の品詞の判断は英語の仕組みに基づくものであり、和訳を介して判断するものではないことを生徒に理解してもらう。些細なことのように思われがちであるが、こうしたところに英語が苦手な生徒が嵌まる陥穽があるように思われる。

高校入試 フレーズで覚える英単語1400 (シグマベスト)

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高校入試 短文で覚える英単語1900 (シグマベスト)

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英文法基礎10題ドリル (駿台受験シリーズ)

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英文法の基礎研究―日・英語の比較的考察を中心に

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日本語文法・形態論 (1978年) (教育文庫〈3〉)

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*1:寺島隆吉(1986)『英語にとって学力とは何か』三友社出版、寺島隆吉(1991)『英語記号づけ入門』三友社出版

*2:形容詞と形容動詞をまったく別の品詞と考えている学習者も多い。しかし黒川泰男が『英文法の基礎研究-日・英語の比較的考察を中心に-』(三友社出版)で述べているように同一の品詞と見るべきであろう。この黒川の考え方は、鈴木重幸『日本語文法・形態論』(むぎ書房)によるものである。