持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

Combination Practiceの再評価

Combination Practiceについて

Combination Practiceとは、その名の通り「結合練習」のことであり、初期の変形生成文法の「複合変形」の考え方に着想を得た指導法である。高校生が英語に躓く要因の一つが、中学の英語と比べて統語的に複雑になっているが連なる文章の理解が覚束なくなることであると言われる。そこで、どんなに複雑な文であっても、単文がいくつか集まって生成されているのだということを学習者に意識させることによって、彼らは複雑な内容を英語で表現し、理解できるようになるのではないかと言う見通しの下に、考え出された指導法、それがCombination Practiceなのである。
複合変形の考え方は、単文の結合関係や結合に伴う変形過程を明示させることが可能になるため、学習者に対して「英文がどうやって複雑になっていくか」ということが手に取るように分かるという利点がある。これを学習者に見せるだけでなく、練習問題によって学習者が「手で覚える」ように配慮したものが、このCombination Practiceであると考えることができる。

Combination Practiceの現代的評価

もともと、Combination PracticeはProductionにための練習と考えられていた。しかし、この練習が功を奏すことによって、伊藤(1995)が指摘するような、学習者がいたずらに長い文を書くような状況に陥る可能性がある。この指導法はPattern Practiceを補完するものとして、複雑な文構造に習熟させるのには有効であるのだが、Productionの観点からは、さほど長い文を使って話したり書いたりする必要もなく、その意味ではCombination Practiceは必ずしも有効な指導法とはいえない。
ただし、複雑な文を書いたり話したりする必要がなくても、それを読んで理解する必要性は依然として失われてはいない。大野(1972)や高橋(1986)は、変形の考え方を用いて文の成り立ちを示した学習書であった。これは英文解釈というRecognitionの目的を達成するためには、Combination Practiceのような学習活動は不要と考えたためと思われる。しかし、この種の学習書は短期間である程度高度な文章が理解できるようになりたいというニーズに応えなければならない*1。そうであるならば、複雑な文の統語構造をただ見せるだけでなく、文を変形させて埋め込んでいくような練習を通じて、学習者が自らの手で統語構造を感じ取っていくことが必要なのではなかろうか。
Speaking/Listeningの指導が、コミュニカティブなものに移行していったことで、accuracyが軽んじられてしまう場合がある。Readingにおいても同様で、文レベルの処理に留まらずパラグラフなどの高次の処理に関心が向けられるようになったのはよい傾向であるが、文やフレーズのレベルの理解におけるaccuracyを確保するには、従来よりも短期間で効率的な統語構造の習熟が可能となるような方法論を考えていかなければならない。その方法論の1つに、Combination Practiceを含めてもよいのではなかろうか。

参考文献

  • 長谷川克哉(1971)「Combination practiceとPattern practice」『英語教育』19(12) pp.10-13.
  • ケリー伊藤(1995)『使える英語へ−学校英語からの再出発』研究社出版
  • 大野照男(1972)『変形文法と英文解釈』千城.
  • 高橋善昭(1986)『英文読解講座』研究社出版
  • 戸塚雅之(1977)「Combination Practice」佐々木昭・小泉保編『新言語学から英語教育へ』大修館書店.

使える英語へ―学校英語からの再出発

使える英語へ―学校英語からの再出発

*1:短期間でないのなら、多読というアプローチも考えられる。