持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

『楽しくわかる日本文法』を読む(その1)

「文法」の捉え方

大久保(1976:14)は、文法を、「語から句になり、文になり、文と文がつながってさらに1つの文になる。そういう範囲でのコトバの規則のこと」と説明している。中学生向けの説明ではあるが、統語論を中心に据えていることは明らかである*1。これは広辞苑の定義をかみ砕いただけなのだが、このことは逆に言えば、大久保が文法を本来あるべき姿で提示しようと考えていることを表していると言える。
大久保はさらに、文法力が思考力を支えているという考え方をしている。人間はコトバを使って思考し、その際にも文法が働いている。だから、文法力が弱ければ思考力も弱いままになってしまう。大久保はこう考えているのである。この立場は、いわゆる「メタ言語能力」の考え方よりも、文法力の及ぶ範囲を広く捉えたものであると言える。

「文」の捉え方

大久保は、文を「ひとまとまりの考えが、コトバで言いあらわされたもの」(大久保1976:25)と定義している。その上で、その対象についての話す人・書く人の態度が示されることも指摘している。このあたりから、文を扱ううえでの陳述の重要性を学習者に気づかせようとする意図が感じられる。
構造面では、大久保は主語と述語を含む文を「形のととのった文」であると考えている。ただし、「主語」や「述語」という用語を避け、「主部・主文素」「述部・述文素」という用語を用いている。そして、構造主義言語学のIC分析に基づいた分析法で、文構造を説明している。このときに大久保は、文を構成する成分の名称を暗記することには反対している。そうした用語や規則を暗記することよりも、文を分析するなどの作業を通じて「文法的思考力」を高めることを文法学習の中心に据えている。

参考文献

*1:大久保は「構文論」と読んでいる。