持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

『楽しくわかる日本文法』を読む(その2)

文の構造

大久保(1976)では、主部と述語との結びつきが1回出てくる文を「単位文」と読んでいる。

  • おじいさんは とを あけました。
  • わかい むすこが すんでいました。

上の例の場合、「おじいさんは」は主文素のみでできている主部で、「わかいむすこが」は「むすこ」に「わかい」という修体文素がついていて、2つの文素で主部が成り立っていると説明される。述部に関しては、「すんでいました」は述文素のみの述部で、「とをあけました」では「とを」という客文素を「あけました」という他動詞がとっていると説明される。大久保は主部、述部という「部」のなかの成分を「文素」と呼んでいる。

  • おじいさんは おおにゅうどうに おにぎりを さしだしました。

このような例では、「おおにゅうどうに」のような文素があるが、これは大久保の用語では補文素として分析される。客文素は動詞の働きが及ぶ対象であり、補文素は動詞の意味を補うものと定義されている。
大久保は単位文を、動詞述語文、形容詞述語文、形容動詞述語文、名詞述語文の4種類に分類している。そして、これら4種類の単位文がすべて、「AはBである」という命題に収斂するような判断を言い表していることを指摘している。さらに、こうした1つ1つの単位文が、話し手の判断のひとこまひとこまを表している。

大久保文法の検討

学習文法という観点から大久保文法をみた場合、その一番の売りは文構造の分析にあると言える。文が長く理解が困難な場合に、文法的な分析をして理解するという考え方自体は悪くはない。また作文指導で学習者が書いてしまった文を分析し、より短い文に分割して読みやすい文にしていくという学習活動にも応用できる。しかし、大きな紙に文を書き出してIC分析を行うという方法は学習活動として考えると、やや煩わしい印象を受ける。それでも文構造の階層性に気づかせることができるという利点もある。階層性に意識が向けば「柔軟なチャンキング」というものを日本語で実感することができ、外国語学習の基盤となるメタ言語能力の養成につながるものとなるかもしれない。
用語の扱いについては、目的語や補語などの既存の学校英文法の用語との接点が見いだしやすいものであると言える。しかし、目的語や補語という考え方が、国語、英語の双方を学ぶ際に、学習者にとって本当にわかりやすいものなのかどうかということを考えていく必要がある。また、大久保文法の枠組みがそもそも日本語の実相を正しく捉えられているのかということも考えていかなければならない。

参考文献