持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

「プロトタイプ−コア理論」の展開(続き)

BEの扱い方

BEをコア理論で扱う場合、そのコアは「存在」である。田中らの枠組みに従えば、XとYという2つの変数をとるX be Yという命題構造をなし、「XがYにある」と解釈される(田中・川出1989)。「存在」をコアと考えた場合の論理的妥当性と心理的妥当性は十分に確保されているといえる。しかし、英語学習のかなり初期の段階から触れることの多いこの動詞を導入する際に、こうしたコアをいきなり導入するのが難しい場合も少なくない。
よりわかりやすい説明の仕方として、「プロトタイプ−コア理論」に近い立場からBEを扱っているものもある。中川(1996)は、BEには「ある・いる」と「=(イコール)」の2つの意味があると説明している。大西・マクベイ(1999)でもBEのプロトタイプとして「イコール」などの「関係」を挙げている。これらは、「be=です」というような丸暗記に陥りがちな学習者に対して、そうした知識の修正を迫るだけの、ある程度の説得力を持っている。
「BE=です」に陥りがちになる問題を回避する説明として、若林(1990)は上記のものとはやや違った考え方をしている。若林は最終的な妥協案こそ大西らと似たものとなったが、その過程で日本語の「終止形」と「連体形」の考え方を持ち込んでいる。

  • He is kind.(彼は優しい。)
  • He is a kind boy.(彼は優しい少年だ。)
  • The boy is in the kitchen.(少年は台所にいる。)
  • The boy in the kitchen is my counsin.(台所にいる少年はうちのいとこだ。)
  • The boy is swimming in the pool.(少年はプールで泳いでいる。)
  • The boy swimming in the pool is my counsin.(プールで泳いでいる少年はうちのいとこだ。)

つまり、動詞の現在形・過去形以外の語句が述語になる場合、日本語で言う「終止形」の時にはBEが必要で、「連体形」の時にはBE動詞が不要であるという説明が可能になるわけである。

BEに対応する日本語

「プロトタイプ−コア理論」では、学習者の持つ日本語の知識を最大限に生かして英語の知識を身につけていくことを意図している。言い換えれば、汎用性の高い「一対一対応」を出発点にする考え方である。しかし、BEについては、そうした汎用性の高い日本語を見いだすことができない。先ほど挙げた「イコール」や「終止形・連体形」という発想が出てくるのは、学習者の頭にあるBEと訳語の関係をいったん切り離そうとするための試みであるといえる。
若林は、日本語の活用形の概念を持ち込むことに対する学習者や教師の拒否反応に配慮して、A is BでBがAについて何らかの説明を加える働きをするという説明に落ち着いている。これは大西らの「イコール」にも似ているが、大西らのものよりも、若干コアに近いところを表している。本来、数学で用いられる「=」は、左辺と右辺を入れ替えても成立する等式に用いるものである。しかし、Tom is a student.とA student is Tom.は同じ意味ではない。生徒はそこまで考えないから大丈夫だという意見もあるが、そこまで考えないこと自体が大丈夫でない事態である。
「イコール」という考えたかと比べると、「終止形・連体形」の考え方は検討に値する。時枝(1950)はA dog is running.のisを「陳述を表はす辞」と分析し、これに対応する日本語の文ではisに相当するものが「零記号」であると述べている。つまり、英語のBE+-ingが日本語の「終止形+零記号」に対応するということで、この考えに立てば、英語のBE+形容詞なども「終止形+零記号」に収斂させることができる。BE+名詞の扱いや、関係詞節と連体形が対応してしまう問題など、「終止形・連体形」の考え方を直ちに取り入れてしまうのは危険である。しかし、これまで学習者に分かりづらかった「補語」という文法概念にメスを入れることにもつながるこの考え方を、もう少しじっくりと検討していく必要はありそうである。

参考文献

ネイティブスピーカーの単語力〈1〉基本動詞 (Native speaker series)

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動詞がわかれば英語がわかる―基本動詞の意味の世界

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英語の素朴な疑問に答える36章

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