言語教師・持田哲郎のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

「プロトタイプ−コア理論」から見たHAVE

HAVEのコアとプロトタイプ

HAVEのコアは、X HAVE Yという命題構造で「Xの中にYがある」となり、ひとことで言えば「所有」である(田中1993)。Xは〈空間〉で、Yは〈モノ〉であるから、「名詞+HAVE+名詞」というパターンをとることが多い。主語が〈空間〉を表すのだから、I have a pen.のように〈人〉が主語であれば、「持っている」という日本語に対応する。この「(人が)所有する」というのが、HAVEのプロトタイプの1つとなる。このプロトタイプでは、Xが〈人〉でYが〈モノ〉となる。
しかし、Yが〈モノ〉であっても、have a bathであれば「風呂に入る」という意味になり、さらにはhave a walkのようにYが〈行為〉になることもある。また、同じ〈行為〉であっても、have to do my homeworkのようなto不定詞をとることもある。have written a letterのように過去分詞をとることもある。従来は、こうした現象を「(本)動詞」と「助動詞」という線引きをして別々のものとして扱われることが多かった。しかし、これらはすべて、HAVEのコアを「主語の経験空間」と拡張することで説明が付く。
HAVEのプロトタイプは「(人が)所有する」だけではない。中右(1998)はHAVEのとる構文を大きく所有文と経験文とに分けている。両者の間には統語的な違いがあり、前者がNP-have-NPという構文をとるのに対して、後者はNP-have-[NP-XP]という小節補文をとる構文となる。しかし、存在を表す文と一時的所有はいずれもNP-have-NP-PPという構文をとり、現実には場面の助けを借りて解釈されることになる。また経験文の主語は〈経験者〉であるが、これが〈動作主〉となれば使役文となる。〈経験者〉と〈動作主〉の区別は語用論的な判断にゆだねられる。これらの言語事実は文法が統語論だけでも意味論だけでも立ちゆかないことを物語っているといえる。*1

HAVEのプロトタイプからコアへの指導

HAVEのとる多様な構文に習熟するにはまず、HAVEの後続する要素が名詞句の場合だけでなく、小節補文の場合があることに気づかせる必要がある。また、主語が〈人〉のほかに〈場所〉などの場合があることに気づかせることも必要である。意味をいったん度外視して、構文の存在自体を認識させるのであれば、Pattern Practiceによって名詞句を補文に置き換えるなどの練習も有効かもしれない。文を小節に変換するCombination Practiceも同時に行うことも考えてよいだろう*2。もちろん、このような練習のあとで、HAVEの意味の広がりについて説明を加えていく必要がある。
もっとも、「プロトタイプ−コア理論」のねらいは、頻度が高く、日本語と結びつけやすい語義・用法から出発し、その後に学習者が新たな用法を目にするたびに、少しずつコアに導いていくことであるから、HAVEの用法を初めから網羅する必要はない。おそらく、一般的には「所有のHAVE→have to→完了形→経験・使役のHAVE」という順序で学習していく場合が多いであろうから、その都度HAVEの「HAVE=持っている」から、徐々にコアを感じ取らせるようにすればよいだろう。また、大人がこのあたりの言語現象について学び直すのであれば、林野(1982)などで取り上げられているような、完了形や受動態と経験・使役構文との連続性のようなものと絡ませるのも有効であるかもしれない。

参考文献

  • 阿部一(2004)「英語教育における「認知的」な立場とその知見の応用可能性」『獨協大学英語研究』60 pp.333-355.
  • 林野滋樹(1982)『言語学と英語教育』三友社出版.
  • 中右実(1998)「空間と存在の構図」中右実・西村義樹(1998)『構文と事象構造』(日英語比較選書5)研究社出版
  • 田中茂範(1993)『英単語ネットワーク基本動詞編』アルク
  • 八木克正(1996)『ネイティブの直観にせまる語法研究』研究社出版

構文と事象構造 日英語比較選書(5)

構文と事象構造 日英語比較選書(5)

*1:中右の一連の分析に対する問題点が八木(1996)などで取り上げられている。確かに記述の精緻化も重要であり、誤った言語事実を学習者に教えてはならない。しかし、外国語として言語を学ぶ場合、個々の語法を完璧に身につけることを当初の目標にする必要はない。このため、ここでは学習者への便宜という観点から、中右の分析を取り上げた。

*2:Combination Practiceについてはhttp://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20070224#p1を参照。