持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

コアの扱い方④

プロトタイプからコアへ

すでに日本語の知識をある程度持つ学習者が英語の基本動詞を学ぶときには、対応する典型的な日本語の動詞といったん結びつけて考えると効率的である。例えば、giveという動詞であれば、「与える」という日本語の動詞と結びつけてみる。「与える」はgiveのコアを反映したものではなく、プロトタイプを反映したものである。「与える」という動詞の図式構成機能から、学習者は次のような図式を頭に浮かべる。

  • 「与える」→「誰が?」「何を?」「誰に?」

ここで、「誰が?」をX、「何を?」をY、「誰に?」をZとそれぞれ置き換えると、英語のgiveが次のようなパターンをとることを、学習者は学ぶことになる。

  • X give Y to Z.
  • X give Z Y.

giveの用法としては、この2つの用法の頻度が高いため、当面はこれで十分である。しかし、やがてgiveを使った句動詞や目的語を1つしかとらない用法に学習者が遭遇することになる。そのときに、giveが「与える」という意味で使われているときにはY to ZやZ Yとなっていることに再度気づかせる。そのうえで、「(to) Zがなかったらどんな意味になるんだろう?」と教師が問いかける。ここで学習者がなかなか思いつかないようであれば、toの意味に意識を向けてみる。

  • John gave a book to Mary.
  • A book went to Mary.
  • John went to Mary's house.

そうすると、学習者はtoが行き先や方向を表すことに気づく。すると、「与える」のgiveでは「もらう人」が「ものの行き先」として表されていたのだが、その行き先がなくなると、ただ差し出している状況しか表さないことに気づくようになる。ここで次のような例文を学習者に示す。

  • The experiment gave good results.
  • Mary gave a sudden death.

すると、「差し出す」というより、ただ「出す」という意味しかgiveそのものにはないのではないか、ということに学習者が気づくようになる。これがプロトタイプからコアへの指導の流れである。

参考文献

  • 田中茂範・深谷昌弘(1998)『〈意味づけ論〉の展開』紀伊國屋書店
  • 田中茂範・佐藤芳明・阿部一(2006)『英語感覚が身につく実践的指導:コアとチャンクの活用法』大修館書店.

英語感覚が身につく実践的指導―コアとチャンクの活用法

英語感覚が身につく実践的指導―コアとチャンクの活用法