持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

認知言語学と学習英文法(その2)

コトとモノ、事態と言語

名詞は何らかのモノを指し、動詞は名詞が指すモノを関連づけて、あるコトを表す(田中2008)。認知言語学に基づく文法では、こうした形で文法の基本を説いていることになるであろう。こうした説明の利点は絞り込みにある。従来の学校文法では5文型8品詞ということで、8品詞を列挙して提示するようなアプローチが見られた。これに対して、田中の文法では名詞と動詞が文法の重要な要素であることを明らかにしている。文法はこの2つの品詞から始まると言ってもよいだろう。
名詞だけでもモノは表せるが、動詞だけではコトは表せない。「我々の感覚は我々に休止状態、または運動中、あるいは変化中の物体ないし生物を示すものであり、「過程」それ自身は決して捉えられない」(ライズィ1994:50)と言われるように、動詞は名詞と結びついて初めてコトを表すのである。すると、松永・河原(2003)のように「事態と言葉の関係」といった品詞論を先送りにした導入も考えられる*1。しかし河原らは、頭の中で思い描く事態と、それを言葉にするための文法を表裏一体のものとして理解すべきであると説く。だとするならば、言語の形式面にも目を向けなければならず、品詞論も当然避けては通れないのである。
認知言語学をベースにしていても、モノとコトとか、事態と言語ということをあえて不問にするアプローチもある(大西・マクベイ1995、阿部1998)。これらの学習書の特徴は、学習者がすでに一定の文法知識を身につけていることを前提としていることである。学習書のねらいは学習者の学習の便宜を図ることであって、その背景にある言語理論や言語観を提示することではない。このため事態と言語の関係を語らなければならないというわけではない。しかし、従来の学校文法に対する代案を目指すのであれば、語順や品詞といった問題に正面から取り組まなければならない。阿部・持田(2005)が阿部(1998)から生まれたテキストでありながら、言語形式を重視したのはこうした事情によるものである*2

参考文献

実践コミュニケーション英文法

実践コミュニケーション英文法

意味と構造 (講談社学術文庫)

意味と構造 (講談社学術文庫)

絵で英文法

絵で英文法

ネイティブスピーカーの英文法―英語の感覚が身につく

ネイティブスピーカーの英文法―英語の感覚が身につく

*1:実際の松永・河原(2003)では、この導入と同じ見開きに品詞のリストが示されている。

*2:阿部・持田(2005)も、名詞と動詞の2品詞から導入している。