文章におけるレトリックとは何か(その11)
修辞
レトリックの第3の要素は「修辞」である。レトリックがこの修辞と同義と捉えられることが多いが、これは弁論術としてのレトリック全体からみればその一部でしかない(澤田1977)。しかも、修辞は美文を追求することに留まらない。場面や文脈に最適な言葉を用いる語彙選択、読み手が理解し納得するために効果的な統語や段落構成をも含む。つまり、基礎的な言語知識を身につけ、それを効果的に使うことが修辞なのである。森岡(1962)はアメリカのコンポジションの教科書の構成を取り上げているが、そこでは文法、句読法、つづり、記載法*1などが修辞に含まれている。
語彙選択
語彙選択の問題については、森岡(1963)が「正確さ」「適切さ」「具体性」「生気」「簡潔」など基準を挙げている。このうち、「生気」とは古めかしい語ではなく、新鮮で具体的な語を使うことである。無駄な語や回りくどい表現を避け、文脈に応じた適切な語を用いることが大切であると説いている。国語学習において、漢字の学習は重要であるが、その熟語の適切な使い分けができるだけの、時間や配慮が必ずしも十分ではないように思われる。また高学歴層を中心として、いたずらに難解な語を使う傾向にも問題がある*2。また、現代では外来語をどう扱うかも問題になる。漢字の表現に改めるのか、カタカナで表記するのか。カタカナで表記する場合、どのような基準で表記すべきかということも問題になる。
文法
文法というと、言語規範として捉えられることが多い。しかし修辞としての文法はそうではない。機能文法(functional grammar)が標榜する、コミュニケーション方略(communivative strategies)としての文法観に立っているのだ。ただし、このことは文法の形式的側面を軽視するということではない。森岡(1963)は、文の構造についての基本的知識と、効果的な文の書き方の2点が作文指導において重要であると指摘する。文の構造に習熟することが、母語による文章表現に有効なのかという疑問もあろう。しかし、清水(1959)が言うように、書き言葉の場合は、話し言葉と異なり、外国語学習のような文法の意識化が必要なのではなかろうか。問題は、学校国文法の現状が、文章表現のために有効なものにはなっていないことである*3。日本語を母語とするものに向けた、実用的な学習文法(pedagogical grammar)を考えていく必要があるのはこのためである。
参考文献
- Givon, T. (1993) English Grammar I. Amsterdam: John Benjamins.
- 森岡健二(1962)「コンポジションと作文の指導」『国文学』7(13) pp.24-31.
- 森岡健二(1963)『文章構成法:文章の診断と治療』至文堂.
- 澤田昭夫(1977)『論文の書き方』講談社.
- 清水幾太郎(1959)『論文の書き方』岩波新書.
- 作者: 森岡健二
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- 作者: 清水幾太郎
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