持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

文章にとって文法とは何か(その6)

コンポジションにおける文論

作文指導においては、内容面の指導に重きが置かれて、文法などの形式面について細かく追求しないことが多いように思う。しかし、正確な文を書かなければ、内容を正確に表現することはできない(森岡1963)。ここでいう正確というのは、統語的に整った構造ということである。正確な文を書くためには文の構造に習熟しなければならない。そのための方法として、文構造を図解することがある。ここでは図解という方法の是非は問わない。ここで指摘しておきたいことは、文章表現のためには、文の構造を意識することも重要であるということである。
従来の作文指導で文法が軽視されてきたのは、教える者の文法観と密接な関係があるように思われる。時枝(1950)で文法学の対象は語論・文論・文章論であるとされたものの、教室の現場では語論すなわち品詞論を中心とした文法観が支配的であるのではなかろうか。品詞の名称を覚えて文の品詞分解をしたり、用言や助動詞の活用表を暗記することだけに文法教育が終始するならば、文章表現や文章理解に文法が役立たないと言われても仕方がないであろう。学習文法として日本語文法を考えるならば、文章表現や文章理解に役立たない文法などナンセンスである。

「わかりやすい文」における文法知識

よく、「主語と述語の対応が明確な文を書くように」と言われる。これを詳細に見ていくと、主語自体、述語自体を明示する、主語と述語を近づける、主語と述語を対応させる、などの条件が出てくる(永野1996)。ここで問題となるのは、主語を常に明示しなければ「分かりやすい文」ではないのかということと、主語以外の文の要素はどう配列すればよいのかということである。主語をアプリオリに特別扱いしたり、主語以外で述語とつながる要素を修飾語として十把一絡げにするような文法では、このような語順の問題を解決することはできない。分かりやすい文であるには、述語と述語がとる項の関係が明確でなければならない。そして、そのような文を組み立てられるようになるには、述語と項の関係を認識、理解することが必要になる。学習文法としての日本語文法には、こうした「文型」の知識が必要なのである。

参考文献

  • 森岡健二(1963)『文章構成法:文章の診断と治療』至文堂.
  • 長野正(1996)『文章表現の技法』国土社.
  • 時枝誠記(1950)『日本文法口語篇』岩波書店

文章表現の技法

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