文章にとって文法とは何か(その1)
文法の目的・効果
白石(編)(1972)では、文法の目的・効果として、次の5点を挙げている。
- 文法によって話が正しくでき、文章が正しく書けるようになる。
- 人の話がよくわかり、文章の意味が正確に読み取れるようになる。
- 国語の法則的な事実のだいじなものがわかるようになる。
- 文法の体系的な知識が得られる。
- 一般に論理的な考え方が得られるようになる。(白石(編)1972:331)
従来の文法指導が4.や5.を志向していたことは、よく指摘されているところである。問題は、1.〜3.の効果があるのかどうかである。そして、効果があるとしたら、その目的のために、文法をどのように記述、提示していくべきなのということを考えていかなければならない。効果の問題については、さまざまな議論があるが、少なくとも書き言葉に関しては、文法知識が効果的や読み書きに貢献するのではないかというのが私の考え*1である。
文章表現の学習文法
文章表現のために文法知識が必要であるという立場に立った場合、どのような文法が効果的なのかという問題に答えねばならない。大久保(1954)は、文章表現のために、主語述語を一貫させる、修飾関係を明確にする、テニヲハを適切に使うことが必要であり、そのために文法知識が必要なのだと言う。実際、助詞の誤用については森岡(1967)でも指摘しており、指導が必要なのは確かである。しかし、森岡は同時に、次にあげるような文章表現の各段階において誤りが見られると指摘している。
- 文字と文字を綴って語を作る段階
- 語と語を綴って文を作る段階
- 文と文を綴って段落を作る段階
- 段落と段落を綴って文章を作る段階
大久保の注意点のみならば、文法は文構造のみを扱えばよいのだが、森岡の指摘を考慮すれば、それでは不十分なのは明らかである。白石(編)(1972)も、文章が複数の文から成り立つものであるから、文章表現のための文法は文章を対象としなければならないことを示唆している。