文章にとって文法とは何か(その3)
文法における文章論
文章を日本語の文法研究の対象としたのは時枝誠記が最初である。時枝(1950)は、文の集合が決して文章にならないことは明らかであるとし、文章が文章として成立するための法則を明らかにすることが、文法研究における文章論の目的であると主張している。そして、文章の法則として表現の展開に着目している。ここで時枝は、表現の展開に重要な役割を果たすのが接続詞と代名詞であると指摘している。接続詞は、文の構成に直接関係しないにもかかわらず、文章での表現の展開に重要な役割を果たしている。また、代名詞はその機能は文を超えて働くため、やはり表現の展開には重要な役割を果たしている。
時枝以前の文法学者は、文章を文法研究の対象とはしていない(金岡1983)。また、時枝(1960)は文法研究における文章論と文章研究とを区別しているが、両者を区別しない立場を取る研究者も少なくない(橘1969)。つまり、文章論という研究分野は存在するものの、それは必ずしも文法研究の一分野というわけではないという考え方もあるということである。もっとも、こうした傾向は文法研究としての文法論を否定するものでもなければ、学習文法に文を超えたレベルを持ち込むことを否定するものでもない。
表現の展開とは、文がどうつながって文章となるのかということである。池上(1983)はこれを、文の意味がコンテクストの中でどのように有意義に統合するのかという言い方で扱っている。ここで言う「コンテクスト」とは言語的コンテクストに限らず、非言語的なコンテクストも含む概念である。時枝はコンテクストという言い方はしていないが、言語の成立条件として「場面」を挙げており、これはコンテクストに相当する概念である。
続きは、後日書きます。
参考文献
- 池上嘉彦(1983)「テクストとテクストの構造」国立国語研究所『談話の研究と教育I』大蔵省印刷局.
- 金岡孝(1983)「文章論の位置づけ」『日本語学』2(2) pp.4-12.
- 橘豊(1969)「文章論の現状と整理」『文法』1(3) pp.63-69.
- 時枝誠記(1950)『日本文法口語篇』岩波書店.
- 時枝誠記(1960)『文章研究序説』山田書院.
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