文章におけるレトリックとは何か(その10)
構造的段落*1
いくつかの文が集まると段落となる。しかし、単に文を集めればよいというわけではない。松本(1993)は、タバコを吸うときに改行するのだと言った日本人作家の話を引き合いに出している。これは、日本語の文章表現や文章理解において段落という単位が重視されてないことを物語っている。佐藤(1959)は、日本ではもともと、文章を段落に分けるという習慣がなかったということを指摘している。ただ単に文化や習慣の問題だとして片づけられるのであれば、文章中の改行はすべきではないと結論づけることもできる。だが、市川(1959)が指摘するように、読み手は改行されたところで、内容上のまとまりを求める傾向がある。つまり、段落読みだとかパラグラフ・リーディングということを身につけていない読み手であっても、段落を内容の単位として捉えているということである。もしこれが事実であるならば、日本語の文章であっても、段落を内容上の単位としてまとめることで読み手に便宜を図ることが必要になる。
「構造的段落」とは澤田(1977)の用語であり、内容上の単位となっている段落、すなわちパラグラフを指す。構造的段落にするには、段落にトピック・センテンスを置き、その段落で何を述べるのかを明らかにする必要がある。ここで、トピック・センテンスを段落のどこに置くのかが問題となる。英語では上村(1993)が言うように、英語ではトピック・センテンスは通常、段落の冒頭に置かれる。日本語ではどうしたらよいだろうか。木下(1981)は原則としてトピック・センテンスを第1文とすべきだという。しかし、先行する段落とのつなぎの役目を果たす文が冒頭に必要となることがあるため、この原則を守ることは難しいという。また同時に木下は、主要部を後回しにする日本語の統語構造がトピック・センテンスを冒頭に置くことを難しくしていると言う。文構造が帰納的であると、段落の構造も帰納的になりがちだというのである。寺島(1986)は、英文を読む際は段落の冒頭に注意せよと説く松本茂の文章がトピック・センテンスを各段落の末尾に置いていることを指摘している。このことから、トピック・センテンスをどこに置くかということよりも、まずはトピック・センテンスを核とする段落を構築することが重要であるということになろう。
参考文献
- 市川孝(1959)「文章構造の考察」『国文学解釈と鑑賞』24(7) pp.73-78.
- 上村妙子(1993)「英語を書くコミュニケーション」橋本・石井(編)『英語コミュニケーションの理論と実際』桐原書店.
- 木下是雄(1981)『理科系の作文技術』中公新書.
- 松本茂(1993)「英語を読むコミュニケーション」橋本・石井(編)『英語コミュニケーションの理論と実際』桐原書店.
- 佐藤喜代治(1959)「主題・筋・段落・文脈」『国文学解釈と鑑賞』24(7) pp. 98-105.
- 澤田昭夫(1977)『論文の書き方』講談社.
- 寺島隆吉(1986)『英語にとって学力とは何か』三友社出版.
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