持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

ライティングと和文英訳

和文英訳の弊害

上村(1993)は、日本人が英語のライティングに弱い原因が和文英訳中心の指導法にあると指摘している。その理由として、書くべき内容がすでに日本語で与えられているため、自分で意見や考えを練る必要がないこと、自分の考えを伝えるために推敲をすることがないこと、そして文章レベルの展開法への配慮がないことを挙げている。
和文英訳に代わるライティング指導法として、上村はライティングをプロセスとして捉えることと、文章レベルにおける英語特有のレトリックを指導することの2点を提案している。

2つの和文英訳

日本の教室で行われている和文英訳は、実は一様ではない。伊藤(1995)は和文英訳問題を「復文問題」と「翻訳問題」に分類している。前者は問題作成者の頭の中に英文があり、その和訳を問題文として用いているものであり、後者は英語に訳すことを想定していない日本文を問題文として用いているものである。復文問題は英語学習のために便宜上作られた日本語表現を扱うのに対して、翻訳問題は生の日本語表現を扱う。
復文問題は文法学習の仕上げとして利用されることも多く、和文英訳の大半を占めている。こうした問題は、不用意な訳読と同様で、不自然な日本語表現が学習者が育んできた日本語に転移するといった悪影響をもたらす可能性がある。英語力と日本語力をともに伸ばしていくという考えに立つ場合、日本語力に干渉するような学習活動はできる限り避けなければならない。
これに対して生の日本語を素材とする翻訳問題は、日本語と英語の違いを肌で感じることができる。英語に訳す前に日本語を正しく理解しなければならないため、日本語の文章を深く読むことにもつながる。難解な文学作品の英訳などはプロの文芸翻訳者に任せるしかないが、新聞記事などの実用的な文章を素材として、文章全体を理解し英語に訳していくという学習活動は非常に有効である。ただしこれは入門期に行うような学習活動ではなく、むしろある程度英文が書けるようになった学習者が行うべきものであると言える。

和文英訳よりも重要なこと

上村の言う、プロセスとしてのライティングはまず、国語教育において行うべきである。日本語で経験したことを、引き続き英語でも経験していくということであれば、文章を書くことへの抵抗が多少なりとも軽減されるはずである。もちろん、英語のライティングの場合は英語の文章特有のレトリックに習熟することは必要である。
かつて、和文英訳では「英借文」という学習法が普及していたが、この方法は改めなければならない。もちろん多くの英文に触れることは大切なことである。しかしそれは文章のようなまとまった分量の、しかも自然な英語に触れるべきであって、学習用にでっち上げられた人工的な英語を断片的に丸暗記するようなことは避けなければならない。例文暗記に代わるのは、やはり文文法の学習である。佐々木(1987)や安井・角谷(1998)などこの視点に立った英作文学習書がいくつかある。ただし、リーディングやライティングなどそれぞれの技能を身につけるたびに文法を学ぶのでは効率が悪いため、学習者がどの段階でどのように文法を学ぶのが望ましいのかは今後の検討課題である。

参考文献

  • 伊藤和夫(1995)『伊藤和夫の英語学習法』駿台文庫.
  • 上村妙子(1993)「英語を書くコミュニケーション」橋本満弘・石井敏(編)『英語コミュニケーションの理論と実際』桐原書店
  • 佐々木高政(1987)『英文構成法』金子書房.
  • 安井稔・角谷裕子(1998)『英作文要覧』開拓社.

伊藤和夫の英語学習法―大学入試 (駿台レクチャーシリーズ)

伊藤和夫の英語学習法―大学入試 (駿台レクチャーシリーズ)

英文構成法

英文構成法

英作文要覧

英作文要覧