持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

日本語−文法

和文英訳再考(その3)

生徒の感じる「もどかしさ」 吉田・柳瀬(2003)はコミュニカティブ・アプローチにおける効果的な日本語の活用について述べている。このなかで、スピーキングやライティングで生徒がどのようなもどかしさを感じるかについての研究に触れられている。これは高校…

古典文法と古文理解(その4)

英文理解と古文理解における文法の扱いの違い 英文理解における文法の扱いについては、「受験英語」が一定の貢献を果たしていると言って良い*1。だが、古文理解においてはどうであろうか。阪倉(1963:11)が「もともと文法なるものは、決して解釈のために整理…

古典文法と古文理解(その3)

その1・その2からずいぶん間が空いていますが、この問題を再び取り上げます。 文法の体系性と有用性 「文法のための文法」という言い方がある。松隈(1958)によれば、それは文法をひとつの学問として捉えた体系的知識を指すようである。松隈も認めているよ…

学習文法における文型論(その4)

形式による絞り込み 国文法での、動詞述語文・形容詞述語文・名詞述語文の3文型の問題点は、森(2004)が指摘するように主語を不当に重視している点が1つある。これは見方を変えれば、主語だけ特別視して他の項を軽視しているということである。この述語がと…

学習文法における文型論(その3)

英語の5文型からの考察 学習文法における文型論というと、やはり英語の5文型が思い浮かぶことが多いであろう。日本語と違い、英語の場合は名詞述語や形容詞述語であってもBEが必要であるから、5つの文型の述語はすべて動詞を含む。このため、国文法のよう…

学習文法における文型論(その2)

主語の扱いと文型 文の構造の観点から文型を考える場合、主語の問題を避けて通ることはできない(森2004)。ここで注意しなければならないのは、日本語の記述文法における主語の扱い方と、学習文法における主語の扱い方は別の問題であるということである。言…

学習文法における文型論(その1)

文型研究の3つの観点 日本語の文型研究は、次の3つの観点があると言われている。 表現意図による文型 語の用法に関する文型 文の構造に関する文型 松井(1963)は、中学校の学習基本文型として1.の観点から文型を設定していくことを提案している。これは文法…

文章にとって文法とは何か(その6)

コンポジションにおける文論 作文指導においては、内容面の指導に重きが置かれて、文法などの形式面について細かく追求しないことが多いように思う。しかし、正確な文を書かなければ、内容を正確に表現することはできない(森岡1963)。ここでいう正確という…

文章にとって文法とは何か(その5)

文法における文論 文論とは、文の構造を扱うものである。しかし、これが問題である。遠藤(1970)は、文論で扱う文の構造とは、主語・述語・修飾語・接続語・独立語などの文の成分であると言う。これが妥当なのかどうかが問題なのである。文の成分という考え方…

文章にとって文法とは何か(その4)

文法における文章論(続き) 文法における文章論は文章の表現の展開を分析するところから始まった。この場合、句や文の接続部分に着目することになる。形式面で言えば、連用中止法による接続法、接続助詞や接続詞を用いる場合、副詞や指示語の用法などが問題…

文章にとって文法とは何か(その3)

文法における文章論 文章を日本語の文法研究の対象としたのは時枝誠記が最初である。時枝(1950)は、文の集合が決して文章にならないことは明らかであるとし、文章が文章として成立するための法則を明らかにすることが、文法研究における文章論の目的であると…

文章にとって文法とは何か(その2)

文法の範囲 文章表現、あるいは文章理解のための文法の範囲とは、どのように設定すればよいだろうか。時枝(1960)は当時の文法軽視の風潮に対して、文法が国語の読解・作文に役立たないのは、文法自体に問題があるのではなく、文法教育をもっぱら単語論に終始…

文章にとって文法とは何か(その1)

文法の目的・効果 白石(編)(1972)では、文法の目的・効果として、次の5点を挙げている。 文法によって話が正しくでき、文章が正しく書けるようになる。 人の話がよくわかり、文章の意味が正確に読み取れるようになる。 国語の法則的な事実のだいじなもの…

語順について(その2)―主語と主題

日本語における主語の「省略」 日本語では主語が省略されるとよく言われる。時枝(1954)も「国語における用言の無主格性」と題する一節の中で、次のように述べている*1。 国語においては、述語となる用言の主語が、屡々省略されて、それが、また、国語の特性…

語順について

「従属節」と日本語 日本語と英語の文構造の違いのなかで重要なもののひとつに、英語では複文が多く用いられるのに対し、日本語では重文が多く用いられているという点が挙げられる*1。亀井(1994)はこれを、英語は立体構造で日本語は平面構造であるという説明…

古典文法と古文理解(その2)

古典文法の定義 そもそも、「古典文法」とは何であろうか。鈴木(1995)によれば、古典文法とは中学校や高校で扱われる古典語に関する文法であるという。ここで鈴木は「古典語に関する文法」と言っているが、これは古代日本語の文法を基盤として確立された文章…

古典文法と古文理解(その1)

古典文法の役割 古文の理解には古典文法の知識が必要であると一般に考えられている。金水(1997)は古典文法の役割について現代語文法と対比させながら次のように述べている。 学校文法に基づく古典解釈のメソッドが確立された結果、文法は完全に暗記の学問と…

脱活用論(その3)

宮田幸一『日本語文法の輪郭』 宮田幸一といえば、英語を教えている人であればその名を知っている人が多いであろう。『教壇の英文法』(宮田1970)は、英語教師必携の書のひとつであると思う。その宮田(1970)を開いてみると、次のようなことが書いてある。 …

脱活用論(その2)

田丸卓郎『ローマ字文の研究』*1 日本語をローマ字で表記するだけなのに、なぜ文法が問題になるのかということを疑問に思う人もいるかもしれない。ふだんの我々の生活では、自分の住所や名前以外のことをローマ字で表記することがないが、もしまとまった文章…

脱活用論(その1)

ロドリゲス『日本語小文典』 一般的な活用論とは違った形で動詞などの語形を扱ったものとして、古いものではロドリゲス(1993)がある。これは1620年に、ヨーロッパ人学習者向けに書かれたものである。ここでは動詞をまず、現在時制・過去時制・未来時制・命令…

日本語文法の体系的知識(その4)

活用と助動詞・助詞 すでに見たとおり、学校文法の活用には問題点が多い。しかし、活用を見直すということは、助動詞や助詞をどう捉えるのかということと一体で考えていかなければならない(国立国語研究所1978)。つまり、学校文法で「語幹−活用語尾−助動詞…

日本語文法の体系的知識(その3)

「活用」について 国語の授業で学校文法を扱う場合に、必ず触れることになるのが活用である。しかし、現在の活用形は問題点が多い。この問題点について、奥津(1981)は3点指摘している。1つは、活用形の名称の問題である。例えば、「未然形」が表しているの…

日本語文法の体系的知識(その2)

「西洋語文法」の影響 ある受験現代文の講師は「現代文とは日本語で書かれた英語である」と言っていた。現代日本語の書き言葉は、それくらい外国語の影響を受けているのかもしれない。柳父(1981)は、日本語は土着のことばと外来の素性のことばとの二重構造を…

日本語文法の体系的知識(その1)

国語教育の本質 国語教育においていったい何を教えるべきかについては、いくつかの立場が考えられる。このなかには村上(2008)や高木(2008)のように、日本語文法の体系的知識を教育内容の中心に据えるべきという立場もある。この立場は、母語の言語技術の習得…

論理的ということ

論理と言語 沢田(1989)は、人間の言語コミュニケーションでは言語構造を基礎とした論理的操作は働いているのに対し、動物の非言語コミュニケーションでは論理的操作が希薄であるという指摘をしている。この指摘は、言語コミュニケーションにおいて論理が重要…

日英対照の学習文法へ向けた諸問題(その3)

「を」や「が」を特別扱いすることの問題点 日英語を対照的に扱う学習文法における日本語の助詞の扱いを見てきている。言語運用におけるチャンクの文法的性質を、名詞チャンク・動詞チャンク・形容詞チャンク・副詞チャンクという4品詞に集約させる形で構成…

日英対照の学習文法へ向けた諸問題(その2)

今回も断片的です。 「は」「が」「を」を特別扱いする分析 生成文法の枠組みでの日本語研究の中には、「は」「が」「を」を他の後置詞と分けて分析しているものもある。Whitman(1998)は、「は」をCPの主要部、「が」をIPの主要部、「を」をTrP(他動性句)…

日英対照の学習文法へ向けた諸問題(その1)

とりあえず、断片的ですが、書き留めておきます。 前置詞と後置詞 日本語と英語では語順が鏡像関係をなすということが、以前から指摘されている。この鏡像関係の中には前置詞/後置詞の対立も含まれる。 with a pen[前置詞+名詞] ペンで[名詞+後置詞] …

助詞「が」について

主語ではなく補語 中島(1987)によれば、現代の日本語における「が」の用法は、英語の主語とはかなり性質の違うものであるという。英語の主語は主題を表し、述語は主語に対する陳述を表す。このため、何かの存在を伝えるような文では主題となる主語がないため…

『たのしい日本語の文法』を読む

基本文の構造 児童言語研究会によって編まれた『たのしい日本語の文法』(以下、児言研1975)では、文をいろいろなもの・ことについての考え(判断)を表すものと定義している。形態上は、文を主語と述語からなるものと分析し、次のような3つの種類に分類し…