持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

日本語−文法

『楽しくわかる日本文法』を読む(その2)

文の構造 大久保(1976)では、主部と述語との結びつきが1回出てくる文を「単位文」と読んでいる。 おじいさんは とを あけました。 わかい むすこが すんでいました。 上の例の場合、「おじいさんは」は主文素のみでできている主部で、「わかいむすこが」は…

『楽しくわかる日本文法』を読む(その1)

「文法」の捉え方 大久保(1976:14)は、文法を、「語から句になり、文になり、文と文がつながってさらに1つの文になる。そういう範囲でのコトバの規則のこと」と説明している。中学生向けの説明ではあるが、統語論を中心に据えていることは明らかである*1。…

日本語の文構造における主語の位置づけ

「終止・連体形」の働き 現代日本語の終止形について、中島(1987)は本来の連体形に吸収されたものであると主張し、「終止・連体形」と呼んでいる。つまり、日本語の文は本来連体形で終わっていて、文自体が名詞的な性格を持つというのが、中島の主張である。…

日本語における主語

英文法との関連 明示的な英文法学習において、母語である日本語の語順との違いを意識することは重要である。寺島(1986)は、学習者の日本語学力が低いと単純なS+V+Oの文を和訳することができないため、英語の語順が「名詞+動詞+名詞」であるのに対して日本…

日英語の語順

OV言語とVO言語という類型化 Whitman(1998)や岡田(2001)など、日英語の語順を分析した研究では、日本語と英語の語順の違いを「主要部パラメータ」(head parameter)の値の違いとして捉えるところから出発することが多い。この場合、日本語が「主要部末尾型…

日本語から学ぶ英文法を考える(続き)

導入のあり方 日本語との対比から英文法を学んでいく場合、国語教育の中で帰納的に国文法を学び、英語教育の中ではその国文法の知識に対応づける形で、ある程度演繹的に英文法を学ぶことができれば効率的であると思われる。しかし、国語教育でそのような文法…

日本語から学ぶ英文法を考える

文の構造 従来の学校文法では、文は主語(もしくは主部)と述語(もしくは述部)から成り立ち、述部の形式が大きく分けて5通りある、という考え方をとってきた。この枠組みでは、文の構造において主語、そして目的語を他の要素(副詞句)とは違う、特別な要…

学習国文法と学習英文法②

文法の位置づけを考える 学習英文法の内容を再点検するうえで、三宅(1978)はその留意点を挙げているが、そのうちの1つとして、英語教育全体の中で文法がなしうることとなしえないことを明確にしておく必要があることを指摘している。この留意点は日本人学習…

学習国文法と学習英文法①

前回のエントリーの反響が多かったので、それに関連する内容で展開していきます。 理論文法と学習文法の区別 全国大学国語教育学会(編)(1954: 61-62)には、「ことばのきまりの学習指導」に関して、次のような記述が見られる。 文法学は一つの体系を持った…

「英文法学習を潰す国文法」という問題

ちょっと古いアンケートから 愛原(1981)には、中学校の国語教師が生徒に対して行った、文法教育に関するアンケートの結果が引用されている。まず「ことばのきまり」についての学習、すなわち文法学習の好き嫌いに関する質問の回答が挙げられていて、3学年と…

『中等国文法別記口語編』を読む(その2)

文法と言語観 時枝(1950)は、当然ながら彼の言語過程説と呼ばれる言語観によって構成されている。この言語観は、「言語をもって、話し手(言語主体)が自己の思想を音声又は文字によって外部に表現する話し手の心のはたらきそのものであるとした」(1-2)と…

『中等国文法別記口語編』を読む(その1)

文法の任務・目的 時枝(1950)の巻頭には、国文法の任務・目的について述べられている。 文法の学習は、他人の話や文章を理解し、或は自己の考えを表現するに必要な「ことば」の法則を学習し、これを身につけることである。 文法の学習は、それが購読や作文に…

書き言葉の国文法とメタ言語能力

小学校低学年の子どもの文 高橋(1985)は、低学年の子どもが主語・述語の関係の整っていない文を書くことがよくあると指摘している。このような場合、子どもに文の構造を教えるためには「拡大の原理」が有効であると高橋は述べている。「拡大の原理」とは、文…

国語教育における文法教育と文法研究

日本語関連諸分野における対話の幕開け 日本語学会春季大会では「文法研究と文法教育」と題したシンポジウムが催され、国語教育・日本語教育・日本語学の各分野で研究に従事するパネリストが集まった。このシンポジウムの趣旨のなかで司会者の仁田(2006)は、…

主要部パラメータと日英学習文法

「鏡像」の例外となる現象 日本語と英語の語順が鏡像関係をなすため、岡田(2001)のようにXバー理論と主要部パラメータ(head parameter)に基づく説明法により学習者が日英語の語順の違いを理解しやすくなるという提案も出ている。主要部パラメータの設定値…

鏡像関係または主要部パラメータ値

OV言語とVO言語 前回も触れたように、日英語の語順のもっと大きな違いは、日本語では「目的語+動詞」となるのに対して英語では「動詞+目的語」となる点である。こうした現象は「鏡像現象」(安藤1986)と呼ばれている。 岡田(2001)はこの事実をXバー理論…

英語の意識的学習と日本語の知識

英語の意識的学習の重要性 日本語を母語とする大人が外国語として英語を学習していく際に重要なのは、英語の知識を意識的に学習していくこと(conscious learning)である。阿部(2004)は、この理由を大人の持つ分析的な特性を生かすことが効果的であるからで…

下線部和訳について

下線部和訳で問われるもの 大学入試などで見られる下線部和訳問題において、出題の意図とは一体何であろうか。伊藤(1983:v)は「原文の文法構造と単語の意味を理解していることを日本語に置き換えることによって示せ」というのが和訳問題の意図であると指摘し…

文法用語について

文法用語の増殖 学習文法理論ではさまざまな文法学習に対応できるような記述と体系化が求められる。明示的な文法指導において、ある程度の文法用語の使用は避けられない。しかし明示的な文法指導であっても、文法用語は少ない方がよい。若林(1990)には、語学…