持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

鏡像関係または主要部パラメータ値

OV言語とVO言語

前回も触れたように、日英語の語順のもっと大きな違いは、日本語では「目的語+動詞」となるのに対して英語では「動詞+目的語」となる点である。こうした現象は「鏡像現象」(安藤1986)と呼ばれている。
岡田(2001)はこの事実をXバー理論と主要部パラメータ(head parameter)の考え方による説明を試みている。もっともいくら明示的文法指導と言っても文法用語は極力使用を抑えるべきであり、言語学の用語をそのまま提示するわけではないので、分析結果が同じであればいかなる理論的枠組みで分析・記述しても学習者の目の前に現れる文法知識は同じものになる。

句構造規則*1における日英対比とチャンキング

こうした語順の違いは、明示的文法指導においては学習者にまず知ってもらうべき知識であると同時に、日本語の語順に慣れている学習者にとって英語を使うことの障害となるものでもある。田中(2005)などで言われている「チャンキング文法」(Chunking Grammar)はこの語順の違いから生じる学習者の負担を軽減する試みと捉えることができる。
句構造規則の導入に際しては、日英語の日英語の語順の違いに学習者が気づくように十分な配慮をするべきである。その上で、「動詞+目的語」や「前置詞+名詞」といった句をひとかたまりの「チャンク」として捉えさせるようにして、語順の違いを乗り越えられるように導いてあげることが必要である。ただし、「名詞+関係節」のように、ひとつのチャンクとして捉えるのが難しいものについては別のチャンキングを考える必要がある。この場合は学習者の日本語文法の明示的知識がどの程度のものなのかによって、指導の仕方が変わってくることも考えられる。

参考文献

  • 安藤貞雄(1986)『英語の論理・日本語の論理』大修館書店.
  • 岡田伸夫(2001)『英語教育と英文法の接点』美誠社.
  • 田中茂範(編集主幹)(2005)『幼児から成人まで一貫した英語教育のための枠組み−ECF−』リーベル出版,

英語教育と英文法の接点

英語教育と英文法の接点

幼児から成人まで一貫した英語教育のための枠組み-ECF-

幼児から成人まで一貫した英語教育のための枠組み-ECF-

*1:学習文法理論においてはXバーやbare phrase structureでは一般化が過剰であって学習をかえって困難にするおそれがあるため、生成文法における句構造規則の考え方を援用すべきであると考えている。