持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

脱活用論(その3)

宮田幸一『日本語文法の輪郭』

宮田幸一といえば、英語を教えている人であればその名を知っている人が多いであろう。『教壇の英文法』(宮田1970)は、英語教師必携の書のひとつであると思う。その宮田(1970)を開いてみると、次のようなことが書いてある。

「私は若いころから、英文法の総合的な研究をして、それを著書の形にして世に出すことを究極の目的とした。しかし、視野を広くするため、初めは英文法には着手せず、言語学の本を読んだり、朝鮮語ギリシャ語やサンスクリット語を学んだりしていた。サンスクリット語は、印度学研究所に4年間も通ってこれを学習し、仏教の経典を読むまでになった。また一方、日本語の研究にも従事し、日本語のアクセントについていくつかの論文を書いたり、日本語の文法に関する本を書いたりした。」(宮田1970ix-x)

つまり、英語の研究・教授を専門としつつも、日本語の研究にも携わっていたというのである。そして、その研究の成果の一端をまとめたものが、『日本語文法の輪郭』である。この書もまた、田丸卓郎のそれと同じく、ローマ字表記のための文法を概説している。以下、宮田のこの書を紹介している須田(2008)に基づいて脱活用論の立場から、宮田の分析を見ていく。
宮田は文末で文を終止するのに用いられる用法を「終止用法」と呼び、この用法で用いられる活用形を「本詞」と呼んでいる。本詞は「叙実本詞」(あるく・あるいた)と「叙想本詞」(あるこう・あるいたろう)に分け、これらをそれぞれ現在と過去に分けている。本詞にはこれに命令形(あるけ)を加え、合わせて5つの語形を含めている。なお、5つの語形のうち、命令形以外の4つの形は終止的にも連体的にも用いられるという説明が加えられている。
宮田は、連用的に用いられる活用形を「分詞」と呼んでいる。分詞は「状態分詞」と「条件分詞」に分けている。さらに「状態分詞」は「シテ分詞」(あるいて)、「シナガラ分詞」(あるきながら)、「シツツ分詞」(あるきつつ)の3つに分れ、「条件分詞」は「スレバ分詞」(あるけば)と「シタラ分詞」(あるいたら)に分けている。
学校英文法の「述語動詞」「準動詞」の対立は、日本語との対比からでは分かりづらいと考えられている。だが、宮田の分析は、英語のそれに近い分類規準を日本語でも立てることができるかもしれないという意味で示唆的である。

参考文献

  • 宮田幸一(1970)『〈改訂版〉教壇の英文法』研究社.
  • 須田義治(2008)「宮田幸一の『日本語文法の輪郭』について」『国文法解釈と鑑賞』73(1) pp.53-61.

教壇の英文法―疑問と解説

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