脱活用論(その1)
ロドリゲス『日本語小文典』
一般的な活用論とは違った形で動詞などの語形を扱ったものとして、古いものではロドリゲス(1993)がある。これは1620年に、ヨーロッパ人学習者向けに書かれたものである。ここでは動詞をまず、現在時制・過去時制・未来時制・命令法・否定形という5つの語形から導入している。活用語尾形成法としていわゆる活用の種類による分類はしているものの、活用語尾による分類はしていない。ロドリゲスはさらに、希求法・接続法・条件法・分詞の語形を導入へと進んでいく。この扱い方は、ラテン文法の枠組みで日本語を捉えようとしているのだが、ヨーロッパの言語と対照させながら日本語を学習することを考えれば当然であろう。
芳賀矢一の「活用連語」
ロドリゲスのような実用目的で日本語文法を記述することは、当時はまれであったようである。江戸時代になると、国学の枠組みの中で文法研究が行われ、鈴木朖、本居春庭らによって、現在の活用論に至る知見が得られることとなった(時枝1940)。明治に入ると、こうした国学の伝統を受け継ぐ研究や西洋文典の枠組みで文法を記述する研究等が見られたが、その多くは形態論において活用を踏襲するものであった。
そのようななか、芳賀は動詞に助動詞がついたものを「活用連語」と呼び、体系化を試みている。例えば、『口語文典大要』にある「動詞連語表」には、次のような語形が示されている。
- 通常の法
- 現在:教へる
- 過去:教へた
- 未来:教へよう
- 推量の法
- 現在:教へるだらう/らしい
- 過去:教へただらう/らしい
- 希望の法
- 現在:教へたい
- 過去:教へたかつた
- 未来:教へたからう
- 可能の法
- 現在:教へられる
- 過去:教へられた
- 未来:教へられよう
- 命令の法
- 現在:教へるな
これらは明治後期から大正期にかけての中等の文法教科書に収められていたものである。このため詳細な解説があるわけではないが、この時期の文法記述としては画期的なものであったことは確かである。